読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

65-2 獨逸國ニ對スル宣戰ノ勅語 大正天皇(第百二十三代)

獨逸ドイツこくたいスル宣戰せんせん勅語ちょくご(第二段)(大正三年八月二十三日 官報

【謹譯】ちんふか現時げんじ歐洲おうしゅう戰亂せんらん殃禍おうかうれヒ、もっぱ局外きょくがい中立ちゅうりつ恪守かくしゅシ、もっ東洋とうよう平和へいわ保持ほ じスルヲねんトセリ。ときあた獨逸ドイツこく行動こうどうハ、ついちん同盟國どうめいこくタル大不利顚だいぶりてんこくヲシテ戰端せんたんひらクノムナキニいたラシメ、租借地そしゃくちタル膠州灣こうしゅうわんおいテモまた日夜にちや戰備せんびおさメ、艦艇かんていしきり東亞とうあ海洋かいよう出沒しゅつぼつシテ、帝國ていこくおよ與國よこく通商つうしょう貿易ぼうえきため威壓いあつケ、極東きょくとう平和へいわまさ危殆きたいひんセリ。

【字句謹解】◯殃禍 わざはひ ◯局外中立 第三國としていずれの一方にも何の援助をあたへない立場 ◯恪守 嚴重げんじゅうに守る ◯同盟國 ここでは攻守こうしゅ同盟國どうめいこくの意 ◯大不利顚國 イギリス國の全體ぜんたいを指す ◯戰端ヲ開クノ已ムナキニ至ラシメ 戰爭せんそうを開始しなければならぬやうにさせた。〔註一〕參照 ◯日夜戰備ヲ修メ いで戰爭せんそうたいする用意を行ふ。ドイツは開戰かいせん以來、東洋方面に散在した後備こうびぐんすべてを膠州灣こうしゅうわんとう召集しょうしゅうして軍務に從事じゅうじさせ、支那し な苦力クリイを使用して要塞ようさいを整へ、軍需品ぐんじゅひんを搬入した。◯艦艇 軍艦や潜水艇せんすいていの意 ◯荐ニ しばしばの意 ◯東亞ノ海洋 東部アジヤの海上のことで、黄海こうかい支那しなかい、又は我が朝鮮・千島ちしまの近海にまで出沒しゅつぼつした ◯與國 同盟國イギリスのこと ◯威壓ヲ受ケ 相手のいきおいにおされること ◯危殆ニ瀕セリ あぶない場合に近づいた。

〔註一〕戰端ヲ開クノ已ムナキニ至ラシメ ドイツがロシヤにたいして宣戰せんせん布告ふこくしたのは大正三年八月一日で、フランスはこの日に動員令をはっし、二日にはロシヤがドイツに宣戰せんせん布告ふこくした。ドイツはただちに中立地帶ちたいたるルクセンブルグを占領し、更に永世えいせい中立國ちゅうりつこくであるベルギイにドイツ軍隊の自由通過を要求し、囘答かいとう期限を十二時間以內とした。ベルギイはこの無法なドイツの要求を認める筈がない。ただちに國王アルベルト一世の名のもと拒絕きょぜつすると、翌三日にドイツはフランスに宣戰せんせんを、四日にはベルギイに宣戰せんせん布告ふこくし、この永世中立地帶ちたい蹂躙じゅうりんした。イギリスはそれ以前に、しドイツがベルギイの中立をおかし、あるいはフランスの海岸を攻擊こうげきすれば、斷然だんぜんつて、ドイツに敵對てきたいするであらうと宣言して置いたが、ことここに至つたので四日に早速ドイツに宣戰せんせん布告ふこくをなし、かくしてヨオロツパに於ける空前の大戰たいせんは開始されたのである。

【大意謹述】ちんは現在ヨオロツパ各國が國をげて戰禍せんかの中にただよへるのを深く心痛しんつうし、主として我國わがくには第三國としていずれにも味方をしない立場を守り、東洋平和を十分に保つことにのみ注意を向けてゐた。しかしドイツ國が永世えいせい中立國ちゅうりつこくであるベルギイを侵略した無法行爲こういから、朕の同盟國どうめいこくであるイギリス聯合れんごう王國おうこくもドイツにたいして戰爭せんそうを開かなければならない狀態じょうたいとなつたのである。一方東洋に於けるドイツの租借地そしゃくち膠州灣こうしゅうわんに於ても、ドイツはいで戰爭せんそう準備をし、東部アジヤの海上に屢々しばしばその軍艦・潜水艇せんすいていなどを出沒しゅつぼつさせる。そのために日本帝國やイギリスの商船などは大きな損害をこうむり、兩國りょうこくかんする通商貿易はドイツ艦におびやかされて萎縮いしゅくし、東洋の平和は今一歩で破壞はかいされんとするところまできたつてゐる。

【備考】我國わがくにの軍備・國防こくぼうが他國にたいする領土侵略の野心のもとに行はれるのではなく、日本の安全をし、東洋平和を確立する目的のもとに常に考究こうきゅうされてゐる事は、明治天皇數々かずかず勅語ちょくごに示されてゐる。ゆえに世界大戰たいせん當時とうじにもロシヤ・フランスからイギリスを通じて度々ヨオロツパへの出兵勸告かんこくを受けたが、堅く拒絕きょぜつした。靑島チンタウはこれとことなり、直接東洋平和に關係かんけいがあるため、同盟國イギリスの勸告かんこくしたがつてち、地中海方面に少數しょうすうの軍艦を派遣したのは、我が商船保護に他ならない。明治維新いしん以來いらいの我が外交の中心が東洋平和の確立にそんすることは、最も注意を要することである。