56-5 露國ニ對スル宣戰ノ詔勅 明治天皇(第百二十二代)

露國ろこくたいスル宣戰せんせん詔勅しょうちょく(第五段)(明治三十七年二月十日 官報

【謹譯】およ露國ろこくはじメヨリ平和へいわ好愛こうあいスルノ誠意せいいナルモノ、ごうみとムルニよしナシ。露國ろこくすで帝國ていこく提議ていぎレス、韓國かんこく安全あんぜんまさ危急ききゅうひんシ、帝國ていこく國利こくりまさ侵迫しんぱくセラレムトス。ことすでここいたル。帝國ていこく平和へいわ交渉こうしょうもとメムトシタル將來しょうらい保障ほしょうハ、今日こんにちこれ旗鼓き こあいだもとムルノほかナシ。ちんなんじ有衆ゆうしゅう忠實ちゅうじつ勇武ゆうぶナルニ倚賴いらいシ、すみやか平和へいわ永遠えいえん克復こくふくシ、もっ帝國ていこく光榮こうえい保全ほぜんセムコトヲス。

【字句謹解】◯好愛 好み愛する ◯毫モ認ムルニ由ナシ ごうは物の小さい形容、少しも認め得られる形跡がない ◯危急ニ瀕シ 一歩誤ればとんでもない事態に至らうとする場合にあること ◯侵迫 壓迫あっぱくする ◯旗鼓ノ間ニ求メル 陣太鼓じんだいこの意で、戰爭せんそうといふ手段を通じて要求すること ◯倚賴 依賴いらいと同じ、たよること ◯克復 再びふくする。

【大意謹述】要するにロシヤには最初から平和をしんに愛好する氣持きもちなどは、少しも認めることは出來ない。ロシヤは現在我が帝國ていこくの提案に何等の囘答かいとうをせず、朝鮮は一歩誤ればとんでもない結果となる瀨戸際せとぎわにあり、我が帝國の利益りえきはロシヤのために壓迫あっぱくを受け、ロシヤは、我國の從來じゅうらい占めてゐた地位に取つて代らうとまでしてゐる。事態がかうなつたからには、我が帝國が平和の間に交渉して事をまとめようとして努力したことも空しく、今後の安全については、戰爭せんそう手段を通じて要求するより他に何らの方法もなくなつてしまつた。ちん汝等なんじら國民の忠義ちゅうぎに厚く、武勇ぶゆうなるに手賴た より、一刻も早く相手を打ち負かして永久の平和を恢復かいふくし、我が帝國の光輝こうき名譽めいよとを完全にたもたんことを希望する。

【備考】當時とうじ、ロシヤの横暴・非禮ひれいに向つて、はげしい怒りを感じてゐた日本國民は、以上の勅書ちょくしょに接して、熱狂せんばかりに、義憤ぎふんの情を燃した。三ごく干渉かんしょう以來多年たねん讐敵しゅうてきたるロシヤ、北方の熊として、無遠慮ぶえんりょに、しかも何の成算せいさんもなく、のさばりかへつてゐるロシヤ、東洋平和のあだたるロシヤ、それを皇軍こうぐん征伐せいばつするといふことには心から共鳴した。かうした擧國きょこく精神せいしんのもとに、皇軍こうぐんは、陛下のおおせをほうじて、滿洲まんしゅう嚝野こうやに、日本海たたかひに突進したのである。その銳鋒えいほうが、到るところ、ロシヤ軍に大打撃だいだげきを加へ、空前の大勝をはくしたのは、當然とうぜんの事だつたと思はれる。