48-2 義勇兵ニ關スル詔勅 明治天皇(第百二十二代)

義勇兵ぎゆうへいかんスル詔勅しょうちょく(第二段)(明治二十七年八月八日 官報

【謹譯】各地かくち臣民しんみん義勇兵ぎゆうへい團結だんけつスルノきょアルハ、忠良ちゅうりょう愛國あいこく至情しじょういづルコトヲル。おもフニくに常制じょうせいアリ、たみ常業じょうぎょうアリ。非常ひじょう徵發ちょうはつ場合ばあいのぞクノほか臣民しんみん各々おのおの常業じょうぎょうつとムルコトヲおこたラス。うちニハ益々ますます生殖せいしょくすすメ、もっ富强ふきょうみなもとつちかフハちんのぞところナリ。義勇兵ぎゆうへいごとキハ現今げんこん必要ひつようナキヲみとム。かく地方官ちほうかんちんむねたいシ、示諭し ゆスルところアルヘシ。

【字句謹解】◯義勇兵 志願兵のこと、常備軍じょうびぐん以外の者がみずか戰線せんせんに立ち、皇軍こうぐんとして生命をきみに捧げることを志願する者。〔註一〕參照 ◯團結スルノ擧 義勇兵ぎゆうへい團體だんたいを組むこと ◯其ノ忠良 義勇兵ぎゆうへい忠義ちゅうぎに厚く臣民しんみんとして本分ほんぶんそむかない意 ◯愛國ノ至情 祖國を熱愛する純粹じゅんすい氣持きもち ◯常制 まつた制度、兵士は兵士として一定の制度のもとに編制される意 ◯常業 各人のまつた職業 ◯非常徵發ノ場合 國家が存亡そんぼうの危機にあたり特別に民間から兵を徵集ちょうしゅうする場合 ◯生殖ヲ進メ 生殖せいしょく生產せいさんの意、國民があたへられた仕事に熱心となること ◯富强ノ源ヲ培フ 富國ふこく强兵きょうへいの基礎を養ひそだてる ◯示諭 理由をよく話して諒解りょうかいさせる。

〔註一〕義勇兵 由來ゆらい愛國の赤心せきしんは我が國民性の特長の一つにかぞへられてゐる。他國民たこくみんにも各自の祖國愛はあるが、日本は特に歷史的な背景を持ち、民族がぼ同一で、他國に侵略されて苦んだことがないから、うちし、に例のない熱烈な祖國愛に燃えてゐる。これは日本の歷史を貫流かんりゅうする傳統性でんとうせいで、大和魂やまとだましいの根本を構成するものだ。滿洲まんしゅう事變じへん以後、近々きんきん一年八ヶ月のうち獻納けんのうされた愛國號あいこくごうの飛行機が一百だいに達した事實じじつは、現にこの祖國愛が、日本やまと民族みんぞくの血管中に脈々として流れてゐる事實じじつを何よりも雄辯ゆうべんに語つてゐる。

【大意謹述】現在淸國しんこくたたかひつつある時にあたり、各地の臣民しんみんが一だんとなつて、第一線に立つ志願兵たらんことを希望せるは、我が忠良ちゅうりょう臣民しんみんの祖國愛の純粹じゅんすい氣持きもちからはっしたものと考へる。思ふに、一こくには一定の制度があり、國民には一定の職業があつて、各自が各方面で努力するのが正しい狀態じょうたいであるから、しんに國家が非常時に諸地方から軍卒ぐんそつみずから進んで徵發ちょうはつする場合のほかは、國民はあたへられた一定の職業に怠らずせいを出すがよい。かくして、內部に於いて一層生產事業を發展はってんさせ、富國ふこく强兵きょうへいの基礎を作り上げることこそ、ちんが現在、國民に望む所である。義勇兵ぎゆうへいを志願し、定職を捨てて戰線せんせんに立つことは、それほど現今の狀勢じょうせいが切迫してをらぬ時に、その必要がなからうと思ふ。各地方官は朕の意が十分に一般に徹底するやう親切に訓諭くんゆしてほしい。

【備考】當時とうじ、日本の陸海軍は優勢であるから、全然、義勇兵ぎゆうへいを要せず、綽々しゃくしゃくたる餘裕よゆうを持つてゐた。が、祖國の大事と見て、靑壯年せいそうねんの人々が、蹶起けっきして、戰場せんじょうおもむかうとしたのは、日本に取つて、大きい强味つよみである。皇恩こうおんむくいまゐらせようとする一心、國家に奉仕しようとする一念、そこにりんとして響く美しい祖國愛の交響樂こうきょうがくきこゆる。かうした强味つよみは、今後もつと擴充かくじゅうし、もつと深め、高めてゆきたい。