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46 海防費補助金下賜ノ詔勅 明治天皇(第百二十二代)

海防費かいぼうひ補助金ほじょきん下賜か し詔勅しょうちょく(明治二十年三月十四日 官報

【謹譯】ちんおもフニ立國りっこくつとめおいテ、防海ぼうかいそなえにちゆるクスヘカラス。しかも國庫こっこ歳入さいにゅういまにわカニ鉅費きょひべんやすカラス。ちんこれメニ軫念しんねんシ、ここ宮禁きゅうきん儲餘ちょよじゅう萬圓まんえんいだシ、いささたすク。閣臣かくしんむねたいセヨ。

【字句謹解】◯立國ノ務 獨立國どくりつこくとして世界各國間に介在かいざいするのに必要な諸務 ◯防海ノ備 外國の侵入を防ぐために我が沿岸を防禦ぼうぎょする諸設備 ◯一日モ緩クスヘカラス たとへ一日間でも輕視けいしし、おこたつてはならない ◯國庫歳入 國家への毎年まいねん收入しゅうにゅう ◯鉅費 巨額の金錢きんせん ◯辨シ易カラス 支拂しはらひがたい ◯軫念 天子が御心みこころを痛められること ◯宮禁ノ儲餘 皇室の御費用ごひようあまり ◯閣臣 大臣及びその他のしんかく閣僚かくりょうのこと。

〔注意〕國防こくぼうは國民全體ぜんたいの責任であり、世界の情勢・武器の進歩と共に次第に巨額の費用を要するのは言ふまでもない。本勅ほんちょく明治天皇御思召おぼしめしはいせられるほか

(一)宮廷ノ用度ようどヲ減シ軍資ぐんしツルノ勅語ちょくご(明治七年一月五日、太政官日誌)(二)閣臣かくしん帝國ていこく議會ぎかい各員かくいんクルノ詔勅しょうちょく(明治二十六年二月十日、官報

などに大御心おおみこころうかがへるのは、じつに恐れ多い次第である。

【大意謹述】つらつら考へるのに、獨立國どくりつこく體面たいめんを保ち、世界各國の間に存在をあきらかにさせるためには、沿海えんかい防禦ぼうぎょかんする諸設備が絕對ぜったいに必要で、一日もおこたつてはならない。しかしこれには巨額の費用を要し、我が國現在の歳入さいにゅう狀態じょうたいでは、急にそれをまっとうすることが困難である。ちんはこのてんに心をなやました結果、今囘こんかい、宮廷の用度ようどうちから三十萬圓まんえんを支出し、國防こくぼうの一じょとすることにした。汝等なんじら閣員かくいんその他群臣ぐんしんは、ちん氣持きもちを十分諒解りょうかいし、速かに國防こくぼうを完成してほしい。

【備考】明治十五年頃から東方のバルカンとはれた朝鮮問題が次第に切迫して來た。それにたいし、海軍擴張かくちょうの必要があるので、政府は、明治二十三年以來、毎囘まいかい議會ぎかい擴張案かくちょうあんを提出したが、薩長さっちょうばつたいする反抗はんこう薩派さつは中心の一部海軍巨頭きょとうたいする反感などがつだひ、いつも否決された。かくして明治二十六年に至り、政府は、第四議會ぎかいにも、依然いぜん海軍擴張案かくちょうあんを出し、計費一千六百八十萬圓まんえんを以て、甲鐵艦こうてつかんせき巡洋艦じゅんようかん報知艦ほうちかん各一隻をむこふ六ヶ年間に建造すべき旨を力說りきせつした。例により、議會ぎかい根氣こんきづよく、これをも否決し去つたのである。

 それにしても、眼前がんぜん現實げんじつは、この否決によつて、そのまま擴張案かくちょうあんほうむることが出來ない。朝鮮の形勢、支那し なの態度など、いづれも東洋平和の大局上たいきょくじょう、日本に不安をいだかせる。それゆえ、政府でも、今度は、どうしても海軍擴張案かくちょうあん實現じつげんし、議會ぎかいはげしくあらそつた。その結果、大詔おおみこと渙發かんぱつせられ、「國家こっか軍防ぐんぼうの事に至つては、いやしくも一日もゆるくするときは、あるいは百年のくいのこさん」とおおせられ、むこふ六年間、毎年まいねん宮廷の費、三十萬圓まんえんを出して擴張費かくちょうひ下附か ふせらるるといふことになり、議會ぎかいつつしんで聖旨せいしほうじ、ここに海軍擴張案かくちょうあんは成立した。ほ同時に、特別の事情あるものを除き、文武官ぶんぶかんはすべて六ヶ年間、毎月まいげつ俸給ほうきゅうの十分の一をけんじ、製艦費せいかんひの補助費となすべきことを命ぜられた。ここに至り、日本海軍は、ようやく目ざましい發達はったつすべく、第一階段に到達したのである。それが間もなく開かれた日淸にっしん戰爭せんそうに非常に役立つたことはまでもない。