治國大綱在文與武、廢一不可、言著前經。向來旌勅、爲勸文才、隨職閑要量置公田。但至備武未有處分。今故六衞置射騎田、毎年季冬、宜試優劣以給越群、令興武藝。其中衞府三十町。衞門府、左右衞士府、左右兵衞府各十町。
【謹譯】國を治むるの大綱は文と武とにあり、一を廢するも不可なり、言が前經に著し。向來勅を旌し、文才を勸むる爲めに、職の閑要に隨つて公田を量置す。但し武を備ふるに至つては未だ處分あらず。今故に六衞に射騎田を置き、毎年季冬、宜しく優劣を試み以て越群に給ひて、武藝を興さしむべし。其の中衞府は三十町。衞門府・左右衞士府・左右兵衞府は各十町とせよ。
【字句謹解】◯射騎田 射田ともいふ。王朝時代に射藝を奬勵するため諸衞府に充て置いた田の事 ◯大綱 凡ての基礎となる根本 ◯一を廢する 文武の何れか一方を廢すること ◯前經 經は經文の意、卽ち先賢の手に成る文獻・經典などの事 ◯向來 先日の意 ◯勅を旌し この勅は、『大學寮等に公廨田を置くの勅』(天平寶字元年八月、續日本紀)を指したもの、『思想社會篇』を參照せよ ◯職の閑要 公職に務める時が長いか短いか、又、それが重要であるか否かに從ふ ◯公田 朝廷から賜はる土地 ◯量置 一定の量を規定して置く。〔註一〕參照 ◯處分 ここでは公田を置くとこを指す ◯六衞 宮中守護の六役所、その名は本勅に見えてゐる ◯越群 一本には「超群」とある、優勝した團體のこと。
〔註一〕量置 前の『大學寮に公廨田を置くの勅』には、大學寮に三十町(一本には二十町)、雅樂寮及び陰陽寮には十町、內藥司には八町、典藥寮には十町と規定されてゐる。
【大意謹述】國を治める上に就ての根本要件は、文と武とを盛んにすることにある。その何れか一方を廢しても、うまく治まるものではないと、昔の聖人の書物に明らかに記してある。先日朕は勅して文才ある人々を一層勵ますために、公職にある時間の多少、又はその職の持つ重要性に從つて區別して、各寮に公田を授けた。但し武を備へる方には未だこの事がない。これは前述した通り文のみを奬勵し、武の方面を輕視したので、國を治める上に甚だ面白くない。依て今、朕は宮中守護の六役所のために射騎田といふものを設けることにした。毎年の冬に各役所から數團を出して射術を競ひ、勝つた組がその田からの收穫を得るやうに規定して、武藝奬勵の一助とする。公田の廣さは、中衞府は三十町、衞門府、左右の衞士府、左右の兵衞府は各十町づつとする。