5-2 新羅を討つの詔 欽明天皇(第二十九代)

新羅しらぎつのみことのり(第二段)(二十三年六月 日本書紀

新羅長戟强弩、凌蹙任那、距牙鉤爪、殘虐含靈。刳肝斮趾、不厭其快、曝骨焚屍、不謂其酷。任那族姓百姓以還、窮刀極俎、旣屠且膾。豈有率土之濱謂爲王臣、乍食人之禾飮人之水、孰忍聞此、而不悼心。

【謹譯】しかるを新羅しらぎ長戟ちょうげき强弩きょうどもて、任那みまなおかめ、距牙きょが鉤爪こうそうもて、含靈がんれい殘虐ざんぎゃくす。きもあしりて、たのしきにかず、ほねさらしてしかばねきて、らきをおもはず。任那みまな族姓やから百姓ひゃくせいありて以還ま たとうきわめてきわめ、すでほふなますつくる、率土そつどひん王臣おうしんたりとふに、ひとあわくらひ、ひとみずみながら、いずくんぞれをしのきて、こころいたまざるものあらむや。

【字句謹解】◯長戟 げき兩側りょうがわに枝が出てゐる槍に似た武器 ◯强弩 大弓おおゆみのこと ◯距牙 「鉤爪こうそう」と共に新羅しらぎじんを形容したとする說もあるが、むし新羅しらぎ特有の武器を指したものらしい ◯含靈 我が國民 ◯快しきに厭かず 殘虐ざんぎゃく行爲こういを痛快がつて中止しない ◯酷らきを謂はず 少しも殘酷ざんこくだとは思はない。これらの部分は漢文特有な誇張した形容が半ば混入してゐるものと考へる ◯刀を窮め俎を極め 一本の刀、一箇のまないたのこさず全部邦人ほうじん虐殺に使用する ◯屠り 殺す ◯膾つくる 人肉料理 ◯率土の濱王臣たり云々 陸地のつづく限りは全部ていの臣下である。天下中の人はことごと王臣おうしんであるとの義で、『詩經しきょう小雅しょうがに、「溥天ふてんもと王土おうどにあらざるはなく、率土そつどひん王臣おうしんにあらざるはなし」とあるにる。

【大意謹述】それにもかかわらず、新羅しらぎ多數たすうの兵を率ゐ、長いほこ、强い大弓などを持つて我が任那みまなを攻め、我々が知らないやうな大牙に似た、まがつた爪のやうな武器で我が居留民を虐殺した。その殘忍ざんにん振舞ふるまいは、じつに驚く程で、肝を出し、あしをづたづたに切りさいなんで痛快がり、骨を勝手な場所にて死骸を葬りもしないでき、それらを少しも殘酷ざんこくとは思はない。任那みまなに居る我が居留民は一人ものこらず、その毒牙にかかり、新羅しらぎはその太刀及びまないた邦人ほうじんを殺し、肉を料理した。天下の民は皆ちんの臣下で、遠い近いの差別はない。その人々と同じ榖物こくもつを食ひ、その人々と同じ水を飮んで生活しながら、同胞どうほうのこの慘事さんじを平氣で聞き流したり、同情の色を示さない者が一たい、ひとりでもあるだらうか。さうした者がゐるとすれば、無論日本人ではないのである。

【備考】新羅しらぎじん殘虐ざんぎゃくは、天人てんじん共に許さざるところだ。日本國民は、敵にたいして寬宏かんこうで、いかなる敵でも、一旦、わが手に落ちた以上、これをあわれみ、これに同情して、殘忍ざんにんな取扱をしない。ここに日本人の性格に於ける一美點びてんがある。