3-2 紀小弓等四將に下し給へる勅 雄略天皇(第二十一代)

きの小弓おゆみしょうくだたまへるみことのり(第二段)(九年三月 日本書紀

況復朝聘旣闕、貢職莫脩。狼子野心、飽飛飢附。以汝四卿拜爲大將。宜以王師薄伐、天罰龔行。

【謹譯】いわん朝聘ちょうへいすできて、貢職こうしょくおさむることなし。狼子ろうし野心やしんきてはり、ゑてはく。なんじきょうもっはいして大將たいしょうとなす。よろしく王師おうしもっちて、天罰てんばつつつしおこなふべし。

【字句謹解】◯狼子の野心 狼子ろうし粗暴そぼうな心を持つた狼の事、言ふ迄もなく新羅しらぎを指したもの ◯飽きては飛り 食べられるだけ食べて腹が滿つればたちまち去る、新羅しらぎが常に日本に援助を求めて國難こくなんをのがれ、國情が安定すればすぐに恩を忘れて朝貢ちょうこうしなくなること ◯飢ゑては附く 腹がへれば平常どんなに嫌つてゐた相手にでも尾をたれてしたがふ。新羅しらぎから攻められればぐに我が國に朝貢ちょうこうして機嫌を伺ひ援助を求めること ◯汝四卿 このみことのりきの小弓おゆみ以下三人にたいして下し給うたものである。その人々に就いては〔註一〕參照 ◯王師 皇軍こうぐんのこと ◯薄め伐ちて 攻擊こうげきして敵を打ち負かす ◯天罰 我が皇室にそむいた罪 ◯龔み行ふべし 遺算いさんなきやう目的を實行じっこうせよとの意。

〔註一〕汝四卿 紀小弓宿禰きのおゆみのすくね蘇我韓子宿禰そがのからこのすくね大伴談連おおとものかたりのむらじ小鹿火宿禰おかひのすくねのこと。紀小弓きのおゆみみことのりほうじて出征しゅっせい中、病死した。紀大磐きのおいわはその子である。小弓おゆみ遺骸いがいが日本に持ちかえられると、天皇はそれにたいして優渥ゆうあくみことのりをたまはつた。又、蘇我韓子宿禰そがのからこのすくね滿智宿禰まちのすくねの子、大伴談連おおとものかたりのむらじ室屋むろやの子、小鹿火宿禰おかひのすくねは『古事記でん』には小弓おゆみの子だとしてある。

【大意謹述】こと新羅しらぎは久しく朝貢使ちょうこうし寄越よ こさず、服屬者ふくぞくしゃとしての義務をいてゐる。平生へいぜい粗暴そぼうな心を持つた狼の如く、自分に都合がよい場合には日本の機嫌を取り、不利な場合、又は利用しなくともよいおりは、たちまち態度を一ぺんする。腹が滿つれば去り、ゑれば尾を振つて、どんな物にでもしたがふのが新羅しらぎくちである。ちんはかうした背德はいとく行爲こういを不問にすることが出來ない。今、汝等なんじらきょう大將たいしょうに任ずるから、ただちに皇軍こうぐんを率ゐて新羅しらぎを攻め、朝廷にそむいた罪は決して消えないものであることをよく知らせよ。汝等なんじらあやまりなく、の事を謹み行へ。