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63-3 戊申詔書 明治天皇(第百二十二代)

大日本詔勅謹解2 道德敎育篇

戊申詔書ぼしんしょうしょ(第三段)(明治四十一年十月十三日 官報

【謹譯】そもそ神聖しんせいナル祖宗そそう遺訓いくんト、光輝こうきアル國史こくし成跡せいせきトハ、へいトシテ日星にっせいごとシ。まこと恪守かくしゅシ、淬礪さいれいまこといたサハ、國運こくうん發展はってんもとちかここリ。

【字句謹解】◯神聖 神々こうごうしくきよらかなこと ◯遺訓 祖先ののこされたをしへ ◯成跡 成しきたれる事實じじつのあと、すなわ國史こくしの上にそんする歷代れきだい天子の御聖德ごせいとくと、われ等臣民しんみんの祖先の忠義ちゅうぎつくした言動をいふ ◯ ひかりかがやく形 ◯恪守 つつしみ守る ◯淬礪 さいきたるものを水に入れて、にらぐこと、例へば刀劍とうけん鍛錬たんれんするにあたり、之をいて水に入れ、火をしててつの質を固くするのである。れい砥石といしにかけて刃物をぐこと。すなわち以上は鍛錬たんれんを意味し、つとめはげむこと。

【大意謹述】一たい、わが神聖しんせいなる皇祖こうそ皇宗こうそう御遺訓ごいくんと、世界に比類たぐいのないわが日本帝國の歷史にあらはれてゐる歷代御聖德ごせいとく御行跡ごぎょうせき及び臣民しんみんが忠義をつくし行跡ぎょうせきは、月や星のやうに燦然さんぜんと光りかがやいてゐる。それであるから、今日こんにちの日本國民たるものは、この皇祖こうそ皇宗こうそう御遺訓ごいくんを心に深く記憶して、固く守り、眞心まごころから奮勵ふんれいし努力したならば、國運こくうん發展はってんの基礎を固めてゆくことが出來るにちがひない。

【備考】このおおせをうけたまわるについて、第一に思ふのは、國史知識の普及といふことが、何よりも大切な意義ある仕事だといふてんにある。皇室の御祖先の御遺訓ごいくんく十分に拜承はいしょうし、また世界に比類ひるいなき國史の美を心にめいじて、あじわひ、これをたっとび、これを重んずるには、どうしても、全國民の國史知識をゆたかにしなくてはならない。

 ところが、明治の後半期においては、中學以上の學生は、すべて國史を知れるものとして敎へず。中學でも、主として、西洋史・東洋史を敎へ、國史についての十分な知識をあたへるべき用意と設備とがない。したがつて中學生は、アメリカの建國けんこくを知つてゐても、日本の建國については何も知らない。ワシントンの事は知つてゐても、藤原ふじはら鎌足かまたりのことは知らぬとつた具合で、西洋史のことは割合に知つてゐるが、國史の知識はまるでゼロにちかい。東洋史についても、熱心でなく、日本に最も密接な關係かんけいある支那し な歷史などは、あまり知つてをらぬ。

 支那し な歷史れきしの知識が稀薄きはくであるのは、まだいくらか我慢出來ようが、國史の知識に乏しいことは、容認し難い。じつをいふと、中學以上、高等學校・專門學校・大學において、各學部とも、國史講座を設け、詳細に國史の知識をさずけて、道義どうぎ建國けんこくの日本をよく知らしめることが肝要かんようである。それがために、一週六時間、乃至ないし八時間を國史講義のためにあててもよいと思ふ。勿論、それは必修課目として深く國史知識の徹底をしたい。

 が、ただそれだけ實現じつげんしただけでは、意義をさない。人形を作つたのみで、魂を吹込まぬうらみがある。そんならどうすべきであるか。第一に日本精神せいしん立脚りっきゃくして、國史を講ずる必要がおおいにある。在來ざいらい、國史を講ずるについては、西洋精神せいしんを以てしたものが決して少くない。西洋本位に國史を解釋かいしゃくし、あるい國體こくたい觀念かんねん皇道こうどう精神せいしんを無視して、國史を書くとつたやうなものが往々おうおうある。

 今日こんにち赤化せきか思想に中毒した學生を大分だいぶ出したのは、畢竟ひっきょう、國史知識の缺乏けつぼうと國史を西洋精神せいしん解釋かいしゃくした人々の弊害へいがいにあてられためである。ゆえに國史を講ずるものは、日本精神せいしんを固く把持は じし、すべてを日本流に解釋かいしゃくすることが、何より肝要かんような資格である。いかに學問がひろく、深くとも、日本精神せいしん立脚りっきゃくしないものは、國史を講ずべき第一の資格にけてゐるとしなければならない。

 以上の如く、國史敎育の改革をすことは焦眉しょうびきゅうに迫つてゐる。そして國史の正しい理解は、づ何としても、小學校から始めなくてはいけない。小學生の頭に國史に就ての正しい知識をぎ込み、ぎに中學時代に、その知識を一層、正確に把持は じせしめるもといを作つて置くべきである。この準備をしてから、高等學校・專門學校・大學において、より詳しく、より周到しゅうとうな國史知識をあたへ、日本國體こくたい尊嚴そんげんと日本皇道こうどうの偉大さとを、事實じじつの上において了解せしめたい。

 かくしてこそ、明治天皇おおせられた如く、「光輝こうきアル國史こくし成跡せいせき」を十分に知りるのである。同時に昔にさかのぼつて、皇室の御祖先ごそせん御遺訓ごいくんほうじ、これを心によみ、身によみ、實行じっこうの上にあらはすことが出來るのである。要するに、國史敎育の根本的な改革は、目下もっかの急務であらねばならぬ。人々よ、この方面に力を注いで、明治天皇聖旨せいしまっとうせよ!