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62-5 日露講和成立ノ際下シ給ヘル詔勅 明治天皇(第百二十二代)

日露にちろ講和こうわ成立せいりつさいくだたまヘル詔勅しょうちょく(第五段)(明治三十八年十月十六日 官報

【謹譯】爾來じらい彼我ひ が全權ぜんけんあいだ數次すうじ會商かいしょうかさネ、われ提議ていぎスルところニシテ、はじめヨリ交戰こうせん目的もくてきタルモノト、東洋とうよう治平ちへい必要ひつようナルモノトハ、露國ろこく要求ようきゅうおうシテ、もっ和好わこうほっスルノまことあきらかニシタリ。ちん全權ぜんけん委員いいん協定きょうていスルところ條件じょうけんルニ、みなちんむねフ。すなわこれ嘉納かのう批准ひじゅんセリ。

【字句謹解】◯數次會商ヲ累ネ 十數度すうど會議かいぎをくり返した。講和こうわ會議かいぎじつに第十五囘目かいめ雙方そうほうの一致てんを見出したのであつた ◯提議 案を相手にさし出して承認を求める。〔註一〕參照 ◯始ヨリ交戰ノ目的タルモノ ロシアと戰爭せんそうを開くに至つた理由。〔註二〕參照 ◯東洋ノ治平ニ必要ナルモノ 〔註三〕參照 ◯和好 平和に同じ ◯協定 講和こうわ會議かいぎの結果決定した條件じょうけん ◯嘉納批准 嘉納かのう滿足まんぞくして受入れる、批准ひじゅん主權者しゅけんしゃが承認すること。

〔註一〕講和條約の提議 ポオツマス會議かいぎに最初帝國が要求した講和條件じょうけんは次の十二じょうであつた。その要點ようてんは、

(第一)露西亞ロ シ アは日本が韓國かんこくに於て政治上・軍事上及び經濟けいざい上の卓絕たくぜつなる利益りえきを有することを承認し、日本が韓國に於て必要と認める指導保護及び監理かんりの措置を執るにあたり、之を阻礙そがいし又は之に干渉かんしょうせざることをやくすること。

(第二)露西亞は一定の期限內に全然滿州まんしゅうより撤兵てっぺいし、かつ同地方に於て淸國しんこくの主張を侵害し、もしくは機會きかい均等きんとう主義とあいれざる何等なんらの領土上の利益りえき、又は優先的もしくは專屬的せんぞくてき讓與じょうよ及び免許を抛棄ほうきすべきむねを約すること。

(第三)日本は改革及び善政の保障のもとに、の占領中にぞくする滿州まんしゅう全部をげて淸國しんこく還附かんぷすべき旨を約すること。ただし遼東りょうとう半島租借權そしゃくけん效力こうりょくを及ぼす地域はかぎりらざること。

(第四)日本及び露西亞は、淸國しんこく滿洲まんしゅうの商工業を發達はったつせしむるめ、列國れっこくに共通する一般の措置を執るにあたり、之を阻礙そがいせざることをたがいに約すること。

(第五)薩哈嗹島サガレンとう及び之に附屬ふぞくする諸島嶼とうしょならびに公共營造物えいぞうぶつ及び財產ざいさんは、すべて日本に讓與じょうよせらるべきこと。

(第六)旅順口りょじゅんこう大連だいれんならびその附近ふきんの領土及び領水りょうすい租借權そしゃくけん及びがい租借權そしゃくけん關聯かんれんし、又はの一部を組成そせいするものとして、露西亞が淸國より得たる一切の權利けんり特權とっけん讓與じょうよ及び免許、ならびに一切の公共營造物及び財產は之を日本に移轉いてん讓渡じょうとせらるべきこと。

(第七)哈爾賓ハルピン旅順口りょじゅんこう間の鐵道てつどう及びの一切の支線しせんならびに之に附屬ふぞくする一切の權利けんり特權とっけん・財產及びがい鐵道てつどうぞくし又は利益りえきため經營けいえいせらるる一切の炭坑たんこうは、何等なんら債務さいむ及び負擔ふたんともなはしめずして、露西亞より之を日本に移轉いてん讓渡じょうとすべきこと。

(第八)滿洲まんしゅう横貫おうかん鐵道てつどうは、敷設ふせつもとづく特許條件じょうけんしたがひ、かつ商工業の目的に限り之を使用するの條件じょうけんを以て、露西亞之を保持經營けいえいすること。

(第九)露西亞は戰爭せんそう實費じっぴを日本に拂戻はらいもどすべし。の金額ならび支拂しはらいの時期及び方法は、雙方そうほうの合意を以て之を定むること。

(第十)戰爭中損害をこうむり、ために中立港に避難し、抑留よくりゅうせられたる露西亞軍艦は、すべ正當せいとう捕獲物として之を日本國に交付すべきこと。

(第十一)露西亞は極東きょくとう水上すいじょうに於けるの海軍力を制限することを約すること。

(第十二)露西亞は日本海・オホツク海及びベエリング海にひんする露西亞國領地の沿岸・港灣こうわん入江いりえ及び河川に於て、充分なる漁業けんを日本國民に許與きょよすべきこと。

 となつてゐる。ウイツテは一おう皇帝に打電だでんして指令をうたのち割地かっち(第五條)軍費拂戻はらいもどし(第九條)抑留よくりゅう軍艦引渡ひきわたし(第十條)海軍力制限(第十一條)には絕對ぜったい反對はんたいした。之にたいして日本は最大の讓歩じょうほ案として、

(一)サガレンとうを二分し、北緯五十度以北の地は之をロシアに還附かんぷし、がい緯度以南の地は日本にぞくせしむること。

(二)日本及びロシアは、宗谷そうや海峡及び韃靼海だったんかいの自由航行を阻礙そがいすべき何等なんらの措置を執らざることをたがいに約すること。

(三)ロシアは北緯五十度以北に在るサガレン島一部の還附かんぷたいする報酬として、金十二億えんを日本に支拂しはらふこと。

(四)上記の趣旨に於て、協定成立せば、日本は軍費拂戻はらいもどしかんする要求を撤囘てっかいすること。ただ撤囘てっかいはロシア俘虜ふりょの保護及び給養きゅうようめ、日本國の支出したる經費けいひに及ばざること。

 を提出した。しかも結局我國は賠償金を全然取り得ず、前記の如く帝都燒打やきうち事件までもき起した。

〔註二〕交戰の目的たるもの 主として前述した我が最初の提案中、第一・第二を意味する。

〔註三〕東洋の治平に必要なるもの 主として前述した我が最初の提案中、第三・第四を意味する。

【大意謹述】その後、兩國りょうこく全權ぜんけん條約じょうやくの一致を見る目的で十數囘すうかい會合かいごうした結果、我が最初に提出した條件じょうけんの內、開戰の原因となつた朝鮮・滿洲まんしゅうかんするもの、及び東洋の平和に必要なものとは、ロシアに於て我が望みをれ、この上、交戰をつづける意志なく、ロシアも速かに心から平和を希望してゐる旨を明白にした。ちん全權ぜんけん委員が相互に相談の結果、意見の一致した條件じょうけん精査せいさして見るのに、ただの一條も朕を滿足まんぞくさせないものはなかつたので、早速之を承認し、ここに署名したのである。

【備考】以上、聖旨せいしそんするところをはいすると、明治天皇寬裕かんゆう大御心おおみこころを以て、ロシヤにたいせられ、一日も早く平和の時代を招來しょうらいしようとされた思召おぼしめしのほどが拜察はいさつせられる。

 さてこれは、講和に關連かんれんして、いろいろの批評が行はれたについて、ここに公平な態度を執つた鳥谷部と や べ春汀しゅんてい氏のいふところを引用したい。彼は、講和條約じょうやくに言及して、比較的に滿足まんぞくする旨意し い披瀝ひれきし、「かく、戰爭の理由を貫徹するに於て大體だいたい上、瑕瑾かきんなき條約を締結するを得たり。韓國かんこく(朝鮮)に於ては、日本の必要と認むる指導保護・監理かんりの措置を露國ろこくに承認せしめ、つ露國が之れを阻礙そがいし、又は之れに干渉かんしょうせざることを約せしめたり。滿洲まんしゅうに於ては、第一、露國は淸國しんこく(支那)の主權しゅけんを侵害し、又は機會きかい均等きんとう主義とあいれざる何等なんら領土上の利益りえき、又は優先的、もしくは專屬せんぞく的の許與きょよを有せざること、第二、露國ろこく旅順りょじゅん大連だいれんならび附近ふきん租借權そしゃくけん及び一切の權利けんり特權とっけん許與きょよを日本帝國に讓渡じょうとし、また長春ちょうしゅん旅順りょじゅん間の鐵道てつどう及び支線しせん鐵道てつどう財產、ならびに炭坑を無補償にて日本帝國に讓渡じょうとし、しかして租借地そしゃくち以外の鐵道てつどうは、相互に軍略上の目的に使用せざること。第三、日露にちろ兩國りょうこく遼東りょうとう半島租借そしゃく關係かんけい地域のほか滿洲まんしゅうより全然同時に撤兵てっぺいし、之を淸國しんこく專屬せんぞくの行政に還附かんぷすることをやくしたり。ここに於てか極東きょくとうに於ける日露の位地い ちは全く改定せられたりとふべし」と論じた。

 ウイツテは、この講和後、フランスの一新聞記者に向ひ、「戰爭はかえってロシヤの行動を正當せいとうの場所と正當せいとう道途どうとに導いてくれた。ロシヤの政策は歐洲おうしゅう方面に活動するのが隱當おんとうだからだ」とつたさうである。