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57-2 敎育ニ關シテ下シ給ヘル勅語 明治天皇(第百二十二代)

敎育きょういくかんシテくだたまヘル勅語ちょくご(第二段)(明治二十三年十月三十日)

【謹譯】なんじ臣民しんみん父母ふ ぼこうニ、兄弟けいていゆうニ、夫婦ふうふあいシ、朋友ほうゆうあいしんシ、恭儉きょうけんおのレヲシ、博愛はくあいしゅうおよホシ、がくおさぎょうならヒ、もっ智能ちのう啓發けいはつ德器とっき成就じょうじゅシ、すすん公益こうえきひろメ、世務せいむひらキ、つね國憲こっけんおもんシ、國法こくほうしたがヒ、一たん緩急かんきゅうアレハ義勇ぎゆうこうほうシ、もっ天壤てんじょう無窮むきゅう皇運こううん扶翼ふよくスヘシ。かくごとキハひとちん忠良ちゅうりょう臣民しんみんタルノミナラス、またもっなんじ祖先そせん遺風いふう顯彰けんしょうスルニラン。

【字句謹解】◯爾臣民 汝等なんじら臣民しんみんよ、と親しく呼びかけられたのである ◯父母ニ孝ニ きみたいする忠義ちゅうぎの心が家庭にあらはれて父母にこうとなるので、兩者りょうしゃが同一のものであることを注目する要がある ◯兄弟ニ友ニ ゆうは親しい情愛のこと ◯夫婦相和シ 夫婦の間は相互に愛し合ひたより合ふこと ◯朋友相信シ 友人間の交際はうそいつわりなく、たがい誠心まごころでつき合ふこと ◯恭儉 つつしみぶか謙遜けんそんすること。驕慢きょうまん反對はんたいである ◯己レヲ持シ 常に自分の態度の中心として持つ ◯博愛 ひろく平等に愛する心 ◯衆ニ及ホシ 段々と多くのものにしひろめる。愛の心を無限にひろくする意 ◯學ヲ修メ 學問を研究する ◯業ヲ習ヒ 職務を習得する ◯智能ヲ啓發シ 知識才能をひらきのばす。これは「がくおさメ」を受けていつたもの ◯德器ヲ成就シ 人が生れながらに持つてゐる善心ぜんしんを立派にその本性ほんせいを失はないで發展はってんさせる ◯進テ 更に、その上 ◯公益ヲ廣メ 世の大多數だいたすうの人の利益りえきになることに力をつくす ◯世務ヲ開キ 社會人しゃかいじんとして行はなければならない仕事を行ふ ◯國憲ヲ重シ 國家の根本となる規定をとうとぶ。國憲こっけん憲法及び皇室こうしつ典範てんぱんにある內容を指す ◯國法ニ遵ヒ 國法こくほう國憲こっけん以外の國家の各種の法律・命令 ◯一旦緩急アレハ 天皇及び國家の一大事といふ場合には ◯義勇 正義のために勇氣をふるひ起す ◯公ニ奉シ 國家のために身をささげること ◯天壤無窮ノ皇運 天地と共に限りない皇位こうい御盛運ごせいうん。この語は天照大御神あまてらすおおみかみ神勅しんちょくから由來したので、我が皇室の特色をあらはすに最もふさはしいものである ◯扶翼スヘシ 扶翼ふよくは共にたすける意。

【大意謹述】汝等なんじら臣民しんみんよ。ちんは次に汝等が日常の行爲こういの中心となる道德方面の規定を述べようと思ふ。汝等は父母には孝行こうこうつくし、兄弟及び姉妹は互に助け合ひ、夫婦は愛し合ふと共にぶんを守つてむつまじくしなければならない。又、友人間の交際は眞面目ま じ めに、誠心まごころで接し、常に身をつつしんで謙遜けんそんの德にはづれず、その上、ひろく世間の人々を愛し、無限にまで愛の力を大きくして鳥獸ちょうじゅう草木そうもくですらもつくしむことが大切である。又、學問を修め各種の職務に熱心となつて、知識・才能をひろめつつ、善良であり働きのある人となり、進んではこの智德ちとくを利用して、社會しゃかい一般の利益りえき增進ぞうしん社會人しゃかいじんとして行はなくてはならない色々な業務をさかんに行ふことも必要となつて來る。更に國家が無事な時には、國の根本法である皇室こうしつ典範てんぱん大日本帝國憲法を尊重し、その他の法律・命令に反する行爲こういなきやうに注意し、天皇及び國家に何かの事變じへんが起つたならば、一しん君國くんこくのために捧げてかえりみず、正義によつて勇氣をふるひ、天地と共に永久不變ふへんな我が皇室の盛運せいうんたすけなければならない。

 今述べた日常國民としての行爲こういの規定を申し分なく實行じっこうする者は、ちんたいして忠良ちゅうりょう臣民しんみんといへるばかりでなく、同時に汝等なんじらの祖先がのこして置いた美風びふうをあらはすことになり、祖先にたいしても孝順こうじゅんな子孫だと言へよう。

【備考】この御聖勅ごせいちょくにおいては、國民として、誰もが必然、履行りこうしなければならぬ道を示して正大な敎訓を垂示すいじされてゐる。すなわ人倫じんりん上・家庭上、各自が修めねばならぬ四とく、(一)こう(二)ゆう(三)(四)しんまっとうすべき旨をおおせられた。父母にたいしてこうつくし、兄弟に向つて友愛をつくし、夫婦むつまじく敬愛し合ひ、朋友ほうゆう互ひにしんを以てまじわるならば、人としての道をまっとうし、家をととのへることが出來る。づこのてんから實踐じっせんして、今度は、社會しゃかい上の道德を躬行きゅうこうすべく、自他共に、恭儉きょうけんの態度・精神せいしんを守り、博愛はくあいの心をいだいて接し合ふことを要する。以上、人道じんどう大義たいぎ發揮はっきした以上は、これに伴ひ、文化の進歩に貢獻こうけんすべく、學問を修め、各自、ぶん相應そうおうした職業を習ひ、かうして智能ちのうひらき、德器とっき成就じょうじゅし、公益こうえきをひろめ、世務せいむを開いて、有爲ゆういの人物となることが肝要かんようである。

 かく道德の實現じつげん、文化の開發かいはつするにしても、これを總轄そうかつしてゆくのに、國家觀念かんねんを以てしないと、人物をつて、魂を入れぬと同樣どうよう遺憾いかんを見なければならない。アナアキズム、マルクス主義は、ともすると、國家をのろつて、これに反對はんたいするが、それは西洋流の事務的國家で、日本の國家は、全くその成立・組織をことにする。西洋の國家は個人主義・利己主義の人々がより集つて、ある約束をし、それによつて、上下をわかつただけであるから、そこに人情味も、道德味も乏しい。あるものは、主として物質的な利己の精神せいしんだ、權利けんり・義務の觀念かんねんだ。したがつて、君臣くんしん・上下はすべて利己によつて、結び付けられてゐて、そのあいだ溫情おんじょうひらめきが極めて少い。ちょう惡政あくせいつづくと、たちまち革命を起すとつたふうで、その上、多數たすう異民族の結合から成るから、反目はんもくやすい素質を持つてゐる。左樣そ うした國家と日本の國家とは本質上、餘程よほどちがふ。

 日本國家においては、早くから天孫てんそん民族が優位を占めて、異民族を驅逐くちくし、あるい同化どうかし、あるいは克服した。かくして皇室を中心に臣下しんか分派ぶんぱしたのであつて、臣下は、いずれも皇胤こういんから出て、枝葉しように分れ、末裔まつえいとなつたのである。すなわち皇室は國民の總本家そうほんけであらせられ、國民は、その分家ぶんけ末家まっけから更に分派した枝葉である。雄略ゆうりゃく天皇が申された如く、「君臣くんしんにして、じょう父子ふ しなり」とふことも、それなればこそ、現實げんじつの上に强い力となつて現はれるのである。したがつて、日本人同志も、全く他人ではなく、もとさかのぼれば、皆兄弟・姉妹である。ここに美しい人情關係かんけいが成立し、かみしもをいつくしみ、しもかみを敬する心持こころもちが、おのづからきあがる。かうした國家組織は、西洋において、全く見られない。ゆえにアナアキズム、マルクス主義者が、これを西洋の國家と同一視するのは、まるで見當けんとうちがひだとはなければならない。

 のみならず道義どうぎ建國けんこくの日本は、積慶せっけい重暉ちょうき養正ようせいの三こうを以て、日本を維持し、進んで世界に道の光を及ぼし、大義たいぎを四かいかうとする目的を有する。ただ西洋式の事務的國家、權利けんり・義務で固められた邦國ほうこくではない。以上のてんに考へ及ぶと、國民のすべては、國家本位に行動し、國家觀念かんねんのもとに、一切を統轄とうかつしなければならない。すなわ明治天皇は、このてんについて垂敎すいきょうせられ、平時へいじ及び非常時ひじょうじに於ける國民の心がけをあきらかにされた。

 平時には如何い かにすべきであるか。常に國憲こっけんを重んじ、國法こくほうしたがふべきである。非常時には、如何い かにすべきであるか。義勇ぎゆうこうほうずることを要する。如上にょじょうは國民のすべてが必ず實行じっこうしなければならぬことであつて、するところは、道義どうぎ建國けんこくの日本、大義たいぎを四かいかうとする日本の中心たる皇室の御盛運ごせいうん發揚はつようすることに主點しゅてんを置かねばならない。