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38 宴飮をなし美服を著するを禁ずるの詔 文德天皇(第五十五代)

宴飮えんいんをなし美服びふくちゃくするをきんずるのみことのり(嘉祥三年四月 文德實錄)

易月之制、雖據舊章、臣子之道須存心喪。宜仰有志朞年之內、禁宴飮作樂、及著美服。

【謹譯】つきふるのせい舊章きゅうしょうるといえども、臣子しんしみちすべからく心喪しんそうそんすべし。よろしく有志ゆうしおおせて、朞年きねんうち宴飮えんいんしてがくし、およ美服びふくちゃくするをきんずべし。

【字句謹解】◯月と易ふるの制 音曲おんきょく・酒宴の禁止は大喪たいそうの月だけに限られてゐたことをいつたもの ◯舊章に據る 古くからの規定となつてゐる ◯心喪 形式上のがあけても心の中では常に故人を慕ふこと ◯朞年の內 滿まん一年間。

〔注意〕このみことのりを明らかにするためには、次の三個の日附ひづけが重要となる。その一はこのみことのり文德もんとく天皇嘉祥かしょう三年四月十八日に下されたこと。その二は仁明にんみょう天皇が同年三月二十一日に崩御ほうぎょあそばされたこと。その三は文德もんとく天皇卽位そくいは同年四月十七日であつたことである。

【大意謹述】三月二十一日に先帝仁明にんみょう天皇崩御ほうぎょ遊ばされて、今日こんにちまでに月はかわり、古來から最も重要とされてゐるの一は過ぎたものの、しんとしてきみたいする道、子として父にたいする情は、そんな形式で支配されるにはあまりに深すぎ、ちんが先帝を慕ひ、そのに服する氣持は時と共に益々ますます大きくなる。ゆえに朕はここに改めて諸官に命じ、先帝の崩御滿まん一年の間、酒宴たのしみをすこと音樂おんがくもてあそぶ事、及び美麗びれいな服を著用ちゃくようする事を禁ずる。

【備考】すべて道德の實行じっこう實現じつげんは、君主が率先してその模範を天下に示される事が何より有效ゆうこうである。支那し な古代の聖帝と呼ばるる人々は、いずれもみずか德行とっこうを示して、天下を導いた。文德もんとく天皇父帝ちちみかどたいして、大孝だいこう精神せいしんを示され、酒を禁じ、美服びふくを禁じ、質素・靜肅せいしゅくのうちに、先帝を只管ひたすら追慕ついぼせらるるとふことは、崩御せられた仁明にんみょう天皇御靈みたまも必ずその至孝しこうの情を喜び、けられたであらうと拜察はいさつする。同時にこう如何い かに尊いかを思つて、兩親つかへる美風が天下にひろがつた事であらうと思ふ。