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33 禮容を敎習するの勅 嵯峨天皇(第五十二代)

禮容れいよう敎習きょうしゅうするのみことのり(弘仁九年正月 類聚國史)

比年賀正之臣不諳禮容。俛仰之間、或致違失。威儀有闕、積慣無改。宜令所司、毎至一季冬月預加敎習、俾容止可觀、進退可度。但參議幷三位已上不在此限。

【謹譯】比年このごろ賀正がせいしん禮容れいようそらんぜず。俛仰ふぎょうあいだあるい違失いしついたす。威儀い ぎくることありて、積慣せっかんあらたむるなし。よろしく所司しょしれいし、一冬月とうげついたごとあらかじ敎習きょうしゅうくわへ、容止ようしるべく、進退しんたいあるにいたらしむべし。ただ參議さんぎならびに三已上いじょうかぎりにあらず。

【字句謹解】◯比年 このごろ、近年の意 ◯賀正の臣 正月の天皇の前で申すしん ◯禮容を諳ぜず 禮儀れいぎ・態度について一定の規律を十分知らない ◯俛仰の間 禮式れいしきあたつての態度、はうつむく、ぎょうはあほのく ◯違失 禮儀れいぎに合してゐないこと ◯威儀に闕くること 規定に合はず威儀い ぎが重々しくない ◯積慣 長い間に積つた惡い習慣 ◯預め敎習を加へ 前以て練習を重ねて申し分なくおぼえさせる ◯容止觀るべく 十分姿かたちに威嚴いげんがあつて立派なやうにする ◯進退度あり 一きょどう禮法れいほうに合ふ事 ◯參議 太政官だじょうかんの役人のことで、朝政ちょうせい參議さんぎするのから、この名を得た。最初はしょうに定まつてゐたが、のちには三が多くなり、三異稱いしょうともなつた。今の場合は三のことである ◯此の限りにあらず その必要はない。

【大意謹述】近年、正月のそうする官吏かんりの多くがその規定を十分には知らなくなつた傾向がある。この人々の禮式れいしき上の態度が一々、法に合せず、その上、威儀い ぎそこなつて、よろしくないが、久しくつづけられた惡弊あくへいは、一度の忠告で改まるものではない。ゆえちんはその方面の役人に命じ、毎年まいねん正月が近くなると、一同を集めて豫行よこう演習を行ふが最もよい方法だと考へる。これを十分に行へば、姿かたちに威嚴いげんがついてかたわらからても立派だと思はれ、ちよつとした行動でも禮法れいほうに合つてはずかしくないやうにならう。ただし三の人々及びそれ以上の者は、別に禮容れいようみだれてゐるとは思はないから、右の如き必要はない。

【備考】すべて、弊風へいふうめ、れいを正しくするには、これを一年の始めに行ふのが最もよい。すなわ善事ぜんじを年の始めに行ふことは、やがてその一年中、善事ぜんじを行ふ端緒たんしょとなり、すべての方面によき影響を生ずる。賀正がせいあたつて、陛下が禮容れいようを正すべきことを注意せられたのは年の始めが一番、大切だといふ意味をも含められた事と拜察はいさつする。このちょくはいして官人かんじん肅然しゅくぜんを正したことであらう。