31-2 病を看養し屍を収斂するの勅 平城天皇(第五十一代)

やまい看養かんようかばね収斂しゅうれんするのみことのり(第二段)(大同三年二月 類聚國史)

又頃者疫癘、死者稍多。屍骸無斂、露委路傍。甚乖掩骼埋胔之義。宜令諸國巡撿看養、一依先格。所有之骸皆悉収斂焉。

【謹譯】また頃者このごろ疫癘えきらいありて、するものややおおし。死骸しがいおさむることなく、あらわ路傍ろぼうす。はなはほねおおにくうずむるのそむけり。よろしく諸國しょこく巡撿じゅんけんをして看養かんようせしめ、もっぱら先格せんかくらしむべし。ところかばねみなことごと収斂しゅうれんせよ。

【字句謹解】◯頃者 このごろ、最近の意 ◯疫癘あり 傳染病でんせんびょうが流行する ◯稍多し 相當そうとうにある ◯斂むる 取りかたづけてほうむる ◯露に路傍に委す 誰も葬る者がないので、死骸はみちかたわらに露にうたれたままで腐つてゐる ◯骸を掩ひ胔を埋むる 死骸を丁寧に取りかたづけて葬る、この語句は『禮記らいき』の月令篇げつれいへんにある。ただし『禮記らいき』のは、鳥獸ちょうじゅうの死骸すらも葬る意に使用されてゐる。ほね身體しんたい全體ぜんたいの骨、にくはその骨についたのこり肉のこと ◯巡撿 各地方を巡視する役人 ◯先格 前例、先代に定められた規定のこと ◯収斂 一場所にあつめ葬ることをいふ。

【大意謹述】更に最近になつて傳染病でんせんびょうが各方面に相應そうおうに流行し、生命を失ふ者が大分だいぶあり、その人々の死骸は誰も葬り手がないのでいつまでもみちかたわらに捨て置かれ、見るも無慘むざんな樣子をあらはしてゐる場合が多い。『禮記らいき』には聖人の敎へとして、鳥獸ちょうじゅうの死骸すらも發見はっけん次第に葬るやうにと書いてある。まして同じ國民の死骸が腐敗するのを見ながらて置くのは、聖人のおしえを全然守らないことにならう。ゆえに少しも躊躇ちゅうちょなく、諸國の巡視役人に命じて病人を看護して前代に定めた規律の通りにし、一方官民かんみん協力して、死骸を發見はっけんしたら、ぐに一場所にあつめて葬らなくてはならない。

【備考】死して、そのところを得ないプロレタリアほど、あはれに、悲しいものはない。陛下が、かうした人々をあわれみ、そのところを得せしめようと思召おぼしめされたことは、天恩てんおん枯骨ここつに及ぶものとはねばならぬ。彼等無名の死者にして、れいあらば必ず感泣かんきゅうしないではをられぬであらう。