29-3 勸學田を置くの勅 桓武天皇(第五十代)

勸學田かんがくでんくのみことのり(第三段)(延曆十一年閏十一月 日本紀略

庶、崐墟之璞、藉琢磨而騰輝、稽峯之箭資括羽而增美、然後採擇英髦用秉庶績。論其弘益、豈不大哉。

【謹譯】ねがはくば崐墟こんきょぼく琢磨たくまりてひかりげ、稽峯けいほうせん括羽かつうりてし、しかのち英髦えいぼう採擇さいたくして、庶績しょせき用秉ようへいせん。弘益こうえきろんずれば、あにだいならずや。

【字句謹解】◯崐墟の璞 崐墟こんきょは古來、チベツトにあつて、美玉びぎょくさんするといはれる崑崙山こんろんざんのこと、ぼくは美しい玉。天下第一の美玉びぎょくの意 ◯琢磨を藉り 十分にみがくこと、たくは石をる、はつやを出す意 ◯輝を騰げ 光澤こうたくすこと ◯稽峯の箭 稽峯けいほう支那し な揚州ようしゅうにある會稽山かいけいざんみねせんは大きな矢、立派な矢のことを言つたもの ◯括羽 矢の末端につける羽でよく飛ぶやうにしたもの ◯英髦 しゅうにすぐれた人 ◯採擇 えらんで採用する ◯庶績 政治上各方面の事功じこう ◯用秉 げ用ゐる ◯弘益を論ずれば 多方面にどれ程の利益りえきがあるかを論ずればの意。

【大意謹述】崑崙山こんろんざんから產する美玉びぎょく丹念たんねんにみがかれればそれこそ天下にくらべる物のない程光澤こうたくを生ずるやうに、又、會稽山かいけいざんから出た木材で造つた矢が、その末端に羽をけると、いよいよ美しくなるやうに、勸學田かんがくでんを得た大學寮だいがくりょう關係者かんけいしゃ一同は、元々優秀な才能があるからここに生活の安定を得て、才智さいち益々ますます進むであらう。ちんはその際に中でも優秀の者を採用し、諸方面に使用して事功じこうげさせようと考へる。これが各方面に及ぼす利益りえきは、決して少なくはないであらう。

【備考】人材拔擢ばってき!これ政治上に於ける要道ようどうの一つである。いずれかといふと、人材は門閥もんばつ富貴ふ きの家よりも、むしろ貧しい家から出ることが多い。勸學田かんがくでんの補助により、皇恩こうおんよくして、勉學する人たちは、いずれかといふと、生活にゆたかでないものが多く、世の苦勞くろうを知つてゐるから、生活の安定を得て、學業に專心せんしんするとなると、すばらしい成績をべき可能性を十分に持つ。そこから、續々ぞくぞく有爲ゆういの人材が現はれることは、想察そうさつするにあまりある。

 桓武かんむ天皇は、平安京へ首都を置くことを斷行だんこうせられ、つ政治上、內外にわたつて輝かしい功績をのこされた。それには、矢張やはり、人材拔擢ばってき銳意えいいして、その周圍しゅういに優秀の人物をあつめられたことが、おおいに役立つたのであらうと拜察はいさつする。