28 漢音を熟習するの勅 桓武天皇(第五十代)

漢音かんおん熟習じゅくしゅうするのみことのり(延曆十一年閏十一月 日本紀略

明經之徒不正習音。發聲誦讀旣致訛謬。熟習漢音。

【謹譯】明經みょうぎょう習音しゅうおんたださず。發聲はっせい誦讀しょうどくすで訛謬かびょういたす。漢音かんおん熟習じゅくしゅうせよ。

【字句謹解】◯明經の徒 支那し な經書けいしょを研究する人々 ◯習音 言語上の音韻おんいん ◯發聲 發音はつおんのこと ◯誦讀 けいのよみ方 ◯訛謬 あやまり ◯漢音 我國に支那し なからつたわつて來て、國語化してつたはる漢字音の一種、支那し な北方のおんつたへたもの、南方の呉音ごおんたいしてかくつた。

【大意謹述】支那し な經書けいしょを研究する人々は言語上の音韻おんいんの知識がけてゐるといふよりも、間違つた知識のもとに平氣でゐるのが少くないやうである。ゆえに現在では發音はつおんの仕方、けいみ方がすでに正しくはない、この根本方面を正さなくては、滿足まんぞくな結果をげることは不可能だといつてよいであらう。ちんはこの理由から、經書けいしょの研究者に第一に漢音かんおんを十分に習ふことを奬勵しょうれいする。

【備考】漢音かんおん呉音ごおん區別くべつは、精確せいかく明瞭めいりょうにし難い。事實上じじつじょうの一例をあげて見ると、「ぎょう」の字は漢音かんおんで、「かう」とよみ、呉音ごおんでは、「ぎやう」とよむ。古音こおんつたへたといふ上からは、呉音が正しいと主張する言語學者もある。したがつてこれは、言語學上、中々むづかしい問題だと思はれる。

 が、この場合、當時とうじ明經みょうぎょうが勝手な訓讀くんどく發音はつおんなどして、なりにあやまりが多く、漢音を以て、よみ方を統一さるる必要を感ぜられてゐたものと拜察はいさつする。したがつてここに正確な漢音のひろく行はれんことを奬勵しょうれいせられたのであらう。