26 天長節を定むるの勅 光仁天皇(第四十九代)

天長節てんちょうせつさだむるのみことのり(寶龜六年九月 續日本紀

十月十三日、是朕生日。毎至此辰、感慶兼集。宜令諸寺僧尼、毎年是日轉經行道、海內諸國幷、宜斷屠。內外百官賜酺宴一日、仍名此日爲天長節。庶使廻斯功德、虔奉先慈、以此慶情、普被天下。

【謹譯】十がつ十三にちは、ちん生日せいじつなり。いたごとに、感慶かんけいあつまる。よろしく諸寺しょじ僧尼そうにをして、毎年まいねん轉經てんきょう行道ぎょうどうせしむべく、海內かいだい諸國しょこくならびほふることをつべし。內外ないがいかん酺宴ほえんたまふこと一にちすなわづけて天長節てんちょうせつとなす。ねがわくは功德くとくめぐらして、先慈せんじ虔奉けんぽうし、慶情けいじょうもっあまね天下てんかこうむらしめむことを。

【字句謹解】◯天長節 この語の由來は『老子ろうし』に「天は長く地は久し、天地のく長くつ久しき所以ゆえんは、の自生せざるを以てのゆえ長生ちょうせいす」とあり、そのとう玄宗げんそうの生誕日を最初は千秋節せんしゅうせつとし、天寶てんぽう七年八月に天長節てんちょうせつと改めたのを採用あらせられたのである。ほ、このみことのり寶龜ほうき六年九月十一日に下したまはつた ◯朕が生日 生誕の日 ◯ この日の意 ◯感慶 よろこびに心が動くこと ◯轉經行道 多數たすう經文きょうもん佛事ぶつじを行ふ ◯海內の諸國 天下じゅうの諸國の意 ◯幷に 一ように、例外なくの意 ◯屠ること 生ある物を殺すこと ◯酺宴を賜ふ 大勢を集めて酒宴しゅえんもよおす ◯先慈 御先祖代々の恩德おんとく ◯虔奉 奉拜ほうはいする。けんはつつしむ意 ◯慶情 よろこびの氣持。

【大意謹述】十月十三日はちんが生誕の當日とうじつである。毎年まいねんこの日が來る度に、朕の心は非常なよろこびでぢつとしてはゐられなくなる。ゆえにこの日を祝ふために、本年以後毎年まいねん諸方面にある寺々の男女の僧を集めてきょう佛事ぶつじを行はせ、同時に日本國中一ように生き物を殺すことを嚴禁げんきんせしめる。また、この日は內外の諸役人に酒宴しゅえんたまひ、天下の統治者の福壽ふくじゅ萬歳ばんざいとなへしめ、天の如く長久ちょうきゅうであれとの意から、天長節てんちょうせつと名づけて、國中の祝日としたい。朕は現在世の中が太平に治まり、生誕の日の祝賀を行へることを、御先祖代々の御恩德ごおんとくだと深く感謝し、このよろこびについて滿まん天下の人々と共に祝ひたいと思ふ。

【備考】日本が有する思想上の一特色は、祖先崇拜すうはいにある。それは祖先の恩德おんとくを思ふことから生れる。始めにかえつて、もとむくゆるといふことは、やがて一家を繁榮はんえいならしめる根本である。ここに陛下が天長てんちょう佳節かせつあたり先祖代々の恩德おんとくを追想し、感謝せられたことは、報本ほうほん反始はんしの意義を明かにせられたのであつて、とうと思召おぼしめしである。