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24 老丁耆老を憫むの勅 孝謙天皇(第四十六代)

老丁ろうてい耆老きろうあわれむのみことのり天平寶字二年七月 續日本紀

東海東山道問民苦使、正六位下藤原朝臣淨辨等奏儞、兩道百姓盡頭言曰、依去天平勝寶九歳四月四日恩詔、中男正丁並雖加一歳、老丁耆老倶脫恩私。望請、一准中男正丁、欲霑非常洪澤者、所請當理、乃須憫矜。宜告天下諸國、自今以後、以六十爲老丁、以六十五爲耆老。

【謹譯】東海とうかい東山道とうさんどうたみくるしみをふの使つかいしょう藤原ふじはら朝臣あそん淨辨じょうべんそうしてもうさく、兩道りょうどう百姓ひゃくせいかしらこぞりていいいわく、いぬ天平てんぴょう勝寶しょうほうさいがつ恩詔おんしょうつて、中男ちゅうなん正丁せいていならびに一さいくわふるといえども、老丁ろうてい耆老きろうとも恩私おんしだっせり。のぞふ。一に中男ちゅうなん正丁せいていじゅんじて非常ひじょう洪澤こうたくうるおはんとほっすと。ところあたれり、すなわすべから憫矜びんきょうすべし。よろしく天下てんか諸國しょこくげ、自今じこん以後い ご、六十をもっ老丁ろうていとなし、六十五をもっ耆老きろうとなすべし。

【字句謹解】◯頭を盡りて 誰もかれも全部 ◯並に一歳を加ふ この時のみことのりに十八歳を中男ちゅうなん・二十二歳以上を正丁せいていとしたことを指したもの ◯中男 十七歳以上二十歳までの男のしょう ◯正丁 二十一歳以上の男子をいふ ◯老丁 六十一歳に達した男子 ◯耆老 六十六歳となつた男子、すなわ納稅のうぜい年齡上若人わこうどは一歳づつし、老人は一歳づつ減ぜられたのである。これにつて免稅めんぜいその他の特典を受ける範圍はんいひろくなり、國民が天恩てんおんよくする度合が大きかつた。

【大意謹述】民情みんじょうを視察する役目で東海道東山道とうさんどうに派遣されたしょう六位藤原ふじはら朝臣あそん淨辨じょうべんは、その結果を次のやうに報告した。それにれば、この兩道りょうどうの人民は一人も例外がなく、去る天平てんぴょう勝寶しょうほうさい四月四日の詔勅しょうちょくの結果、中男ちゅうなん及び正丁せいていは共に過去よりも一歳づつして、納稅のうぜい年齡にそれだけ餘裕よゆうを得たが、老丁ろうてい耆老きろうはこの詔勅しょうちょくに漏れたと悲しんでゐた。使者はその事をちんに報じ、特別の恩典おんてんで、中男・正丁と同樣どうよう、一歳づつを減ずるやうにと願つた。朕もそれにいては同じ氣持で、このねがいは決して無理ではないと思ふ。老人どもには一刻も早くあわれみを加へ皇室の公平なことを知らせなければならない。ゆえに朕は今後、六十歳を老丁ろうていとなし、六十五歳と耆老きろうの最低限度とする。汝等なんじらぐにこのよしを天下の諸方面に告げて欲しい。

【備考】若者の納稅のうぜいについて、老人の免稅めんぜいについて、共に思ひり深き御命ぎょめいつたへられた事は、天下の大きいよろこびであつたと拜察はいさつする。この洪恩こうおんに感じた人々は、日夜そのぎょうにいそしみ、脫稅だつぜいなどを計ることなく、國家を富ませることを一意、思ひつづけて、洪恩こうおんむくいまゐらせようとしたにちがひないであらう。