21-3 諸學生の所課を勉勵するの勅 孝謙天皇(第四十六代)

諸學生しょがくせい所課しょか勉勵べんれいするのみことのり(第三段)(天平寶字元年十一月 續日本紀

竝應任用。被任之後、所給公廨、一年之分、必應令送本受業師。如此則有尊師之道終行、敎資之業永繼。國家良政、莫要於茲。宜告所司、早令施行。

【謹譯】ならび任用にんようおうずるものは、にんぜらるるののちたまところ公廨く げねんぶんをば、かならぎょうくるのおくらしむべし。かくごときときはすなわ尊師そんしみちついおこなはれて、敎資きょうしぎょうながぐことあらむ。國家こっか良政りょうせいこれよりようなるはなし。よろしく所司しょしげてすみやかに施行しこうせしむべし。

【字句謹解】◯公廨 公廨田くげでんからきゅうせらるる祿米ろくまいのこと ◯敎資の業 師が生徒に敎へる事業、師の生活がより安定するからの意 ◯國家の良政 善政ぜんせいのこと ◯所司 その方面の役人 ◯施行 實行じっこうする。

【大意謹述】次に前述した必修課目をて採用されると決定した者は、いずれの研究生も、一樣びように最初自分が受ける豫定よていとなつてゐる一年分の祿米ろくまいを、必ず舊師きゅうしに送らせる規定として、これを守らせる。以上の規定が十分に守られるならば、師を尊敬する道が申し分なく行はれ、敎師の生活もより一層安定して、共に學問に專心せんしん出來るのである。國家にとつて、これ以上に必要な善政ぜんせいはない。速かにその方面の役人に告げ、少しも早くこれを實行じっこうさせるやうにとりはからふがよろしい。

【備考】今日こんにちの學問は、明治以來、歐米おうべい流の偏智へんち敎育にとらはれてゐる。勿論、知識が必要だが、それのみを偏重へんちょうすると、所謂いわゆる「物知り」を鼻にかける輕薄けいはく者流のみ續出ぞくしゅつして始末が惡い。

 學問の本意が全き人間を作るにある以上、知識よりも、人格に重きを置くべきである。人格第一、知識第二で、德性とくせいを磨き、品位を高めることが肝要だ。今後の敎育は全く日本流に改めらるべきで、盲目的な西洋追隨ついずいは敎育上、斷乎だんことしてやめなければならぬ。

 今、この詔勅しょうちょくはいすると、一方において知識增進ぞうしんの方法を說かれ、他方において人格鍛鍊たんれんによつて、德を積むことを敎示きょうじせられてゐる。舊師きゅうしたっとべ!かく仰せられた言葉にりんとして大きい力があるのを感ずる。學問の道は、第一に師につかへることに始まる。勿論、よい師匠を選ばねばならぬが、すでにこれを選定して、師事し じした以上、誠實せいじつに弟子のれいを執つて、報恩ほうおんの一を忘れてはならない。この勅語ちょくごにおいて、師恩しおんの重んずべきことを仰せ出された事を、深く銘記めいきすべきである。

 けだし、師恩しおんを重んずる者は、必ず君恩くんおんを重んずる。君恩を重んずる以上、親の恩を忘れない。ここに深い意義がある。