16 典藥生を戒むるの詔 元正天皇(第四十四代)

典藥生てんやくせいいましむるのみことのり(靈龜二年五月 續日本紀

大學典藥生等、業未成立、妄求薦擧。如是之徒、自今以去不得補任國博士及醫師。

【謹譯】大學だいがく典藥生てんやくせいぎょういま成立せいりつせざるに、みだりに薦擧せんきょもとむ。かくごときのやからは、自今じこん以去いきょ國博士くにのはかせおよ醫師い し補任ほにんすることをざれ。

【字句謹解】◯典藥生 大學だいがくに入つて醫學いがくを研究してゐる學生 ◯薦擧を求む 自己の地位をるため、又は保つために、諸方面に運動する ◯補任 就任せしむる意。

【大意謹述】現今、大學で醫學いがく研究中の學生などが、未だその方面の課程を終らないのに、將來しょうらいの地位を求めるため、各方面に運動する者が多いとかちんは聞いてゐる。勿論この種のことは法に於て許されてゐず、道理からも正しくない。朕はこの傾向を防ぐために、今後さうした行動ある學生は、國博士くにのはかせ醫師い しに就任させないやうしたいと思ふ。

【備考】この勅語ちょくごはいすると當時とうじ官界かんかいようやく生存競爭が、はげしくなり出して來たことを想像しないでをられない。それにしても、醫學生いがくせい自薦じせん運動に熱中したことは、どの方面から考へても、妥當だとういてゐる。十分修むべきものを修めないで、早くよい地位に有りかうとするのは、古今同一轍どういってつであるとはふものの、がく忠實ちゅうじつな態度とはひ難い。こと仁術じんじゅつであるから、實際上じっさいじょう經驗けいけんをも十分に積んで置かねばならぬ。それらの事を考へると、以上の勅語ちょくごはっせられたのは、醫學いがく振興しんこう上最もよい刺戟しげきとなつたであらうと思はれる。