15 禮節を嚴肅にするの詔 元明天皇(第四十三代)

禮節れいせつ嚴肅げんしゅくにするのみことのり慶雲四年十二月 續日本紀

凡爲政之道以禮爲先。无禮言亂、言亂失旨。往年有詔停跪伏之禮。今聞、內外聽前、皆不嚴肅、進退无禮、陳答失度。斯則、所在官司不恪其次、自忘禮節之所致也。宜自今以後、嚴加糾彈、革其弊俗使靡淳風。

【謹譯】およまつりごとすのみちれいもっさきとなす。れいくばげんみだれむ、げんみだるればむねうしなはむ。往年おうねんみことのりあつて跪伏きふくれいとどむ。いまくに、內外ないがい廳前ちょうぜんにて、みなおごそかにつつしまず、進退しんたいれいなく、陳答ちんとううしなふ。すなわち、所在しょざい官司かんしついでつつしまず、みずか禮節れいせつわするるのいたところなり。よろしく自今じこん以後い ごおごそかに糾彈きゅうだんくわへ、弊俗へいぞくあらためて淳風じゅんぷうなびかしむべし。

【字句謹解】◯往年 ここでは文武もんむ天皇慶雲けいうん元年正月二十五日を指す。「辛亥かのとい、始めて百かん跪伏きふくれいとどむ」(續日本紀卷三)。ちなみに、このみことのり慶雲けいうん四年十二月二十七日に下し給うた ◯跪伏の禮 膝をついて頭を地につける禮法れいほう ◯進退禮なく 平常の態度に少しもれいが見られない ◯陳答度を失ふ 天子の御前みまえに出た場合、及び人々と對應たいおうの時に適當てきとう禮儀れいぎを守らない ◯所在の官司 各方面に秩序を保持させる役人 ◯其の次を恪まず 順序をつつしまぬ事 ◯糾彈を加へ 制裁を加へ、相當そうとうばつあたへること ◯弊俗を革め 風俗上の弊害へいがいを改革する ◯淳風に靡かしむべし 正しい風俗にしたがはせる必要がある。

【大意謹述】當今とうこん、政治を行ふにあたり、第一に注意すべきは、常に禮儀れいぎを先にする心得である。禮儀れいぎがなければ、かみげん威嚴いげんがなく、かみげん威嚴いげんがなければ、下々しもじも萬事ばんじの規定が達する筈はない。かつ文武もんむ天皇群臣ぐんしんみことのりして、在來ざいらいかんが膝を折つて地に平伏へいふくしたれいの樣式を中止された。現在ちんの見る所と周圍しゅういからの噂とを綜合そうごうするのに、朝廷及びそれ以外の各役所では、すべての人々が禮儀れいぎを先にすることを忘れ、平生へいぜい心をその方面に向けず、その行動にれいの見るべきものがなく、かみたいする態度その他にも一定の規律を守らなくなつた者がすこぶる多いらしい。これといふのもその方面に秩序を保持してゆく役人が、正しい禮儀れいぎ順序をつつしまず、規定を忘れた影響だと言はざるを得ない。この惡風あくふうは一刻も早く除き去るに越したことはない。今日こんにち以後い ご嚴重げんじゅうに制裁を加へ、現在の風俗上の弊害へいがいを改革し、正しく一定する必要がある。