10 宮人に諂ふことを禁ずるの詔 天武天皇(第四十代)

宮人きゅうじんへつらふことをきんずるのみことのり(十年五月 日本書紀

凡百寮諸人、恭敬宮人過之甚也。或詣其門謁己之訟、或捧幣以媚於其家。自今以後若有如此者、隨事共罪之。

【謹譯】およ百寮ひゃくりょう諸人しょにん宮人きゅうじん恭敬きょうけいする、あやまてることはなはだし。あるいもんもうおのうったえあつらふ。あるいへいささげて、もっいえぶ。いまより以後い ごかくごとものあらば、ことままともつみせむ。

【字句謹解】◯宮人 女官にょかん總稱そうしょう後宮こうきゅう職員しょくいん令義解りょうのぎげ』に「婦人仕官者しかんしゃ惣號そうごうなり」とある ◯ 自分の一身にかんした申し出 ◯幣を捧げて云々 へいはまいないもの、すなわ賄賂わいろ持參じさんする ◯事の隨に 事の知れ次第に。

【大意謹述】現在、一般の官吏かんりあまりに女官にょかんの機嫌をとりすぎる。はなはだしいのになれば、自分一身だけにかんした問題でその家を度々訪問したり、いろいろな賄賂わいろを持つて御世辭お せ じをふりまくと聞いてゐる。言ふまでもなくこれは官吏かんりとして不正な行爲こういである。今後この種の者があれば、事の知れ次第、官吏かんり女官にょかんも共に罪するであらう。

【備考】宮中肅正しゅくせいといふことは、古今いつの世にも必要だが、ともすると、社鼠しゃそ城狐じょうこ巢喰す くふところとなりちで風紀が紊亂ぶんらんし易い。宮中のみならず、その他の官界かんかいにおいても、矢張やはりぼ同じやうな弊害へいがい賄賂わいろ横行がはなはだしい。天武てんむ天皇は、嚴正げんせいとうとび、銳意えいい政治の改革にあたられたから、社鼠しゃそ城狐じょうこを一掃しようとせられたのであらう。