8-15 陋習を禁ずるの詔 孝德天皇(第三十六代)

陋習ろうしゅうきんずるのみことのり(第十五段)(大化二年三月 日本書紀

(營墓の詔)

故今立制。凡養馬於路傍國者、將被雇人、審告村首、方授詶物。其還郷日、不須更報。如致疲損、不合得物。縱違斯詔、將科重罪。

【謹譯】ゆえいまのりつ。おようま路傍みちのほとりくにやしなものは、やとはれびとて、つまびらかに村首むらのおびとげて、まさ詶物おくりものさずけよ。くにかえらんに、さらつぐなふことをもちゐず。疲損そこなへることをいたさば、ものべからず。みことのりたがはば、まさおもつみおおせむ。

【字句謹解】◯雇はれ人 委任せられた人 ◯村首 村長のこと『書紀』には「おびとおさなり」と細註さいちゅうしてある ◯詶物 留守中養育してくれることにたいする報酬 ◯更に報ふことを須ゐず 再び物をあたへる必要はない ◯疲損へること 何等かの意味で預けた時に比して預け主の損害となるやうな時には ◯科せむ 命令する。

【大意謹述】ゆえに今後かうした事のないやうにちんはここに禁制を立てる。爾後じ ご、近くの國の人々に馬を預けて養はうとした際には、相手の人と共に村長のもと行びき、詳しく事情を說明して報酬を村長にまで渡しておく。再び故郷にかえる時には、その上何も持つて行く必要はない。預つた者は、預け主の留守中に少しでも馬に損失をあたへれば、最初村長に手渡された報酬を受取ることは出來ない。まん一このみことのりたがつたならば、嚴重げんじゅう處罰しょばつを命ずる。

【備考】當時とうじの農夫に取つて、馬は目ぼしい財產の一つだつた。その馬を何の理由もなしに殺されたり、奪はれたりすることは、彼等の堪へ難い苦しみであつた。皇室におかせられてはこれを推察され、これに同情せられ、仁恩じんおん、無名の農民に及び、かくして彼等の一部が度々、辛い目を見た場合から、これを救ひ出すべき法律を制定せられたことは、しんに有難い。正直な農夫のすべては、これによつて安堵し、優渥ゆうあく天恩てんおん拝謝はいしゃした事と思はれる。