8-14 陋習を禁ずるの詔 孝德天皇(第三十六代)

陋習ろうしゅうきんずるのみことのり(第十四段)(大化二年三月 日本書紀

(營墓の詔)

復有百姓、臨向京日、恐所乘馬疲痩不行、以布二尋、麻二束、送參河尾張兩國之人、雇令養飼、乃入于京。於還郷日、送鍬一口。而參河尾張人等、不能養飼、翻令疲死。若是細馬、卽生貪愛、工作謾語、言被偸失、若是牝馬孕於己家、便使祓除、遂奪其馬。飛聞若是。

【謹譯】百姓ひゃくせいあり、みやこもうくるのぞみて、ところうまつかせてかざらむことをおそれて、ぬのひろあさそくもって、參河みかわ尾張おわり兩國りょうこくひとおくりて、やとひてやしないはしめ、すなわみやこまいりぬ。くにかえくわ一口ひとふりおくる。しかるに參河みかわ尾張おわり人等ひとらやしないふことあたはずして、かえりてなしむ。かくごと細馬よきうまは、すなわ貪愛たんあいしてたくみ謾語いつわりつくりて偸失ぬ すまれたりとひ、かくごと牝馬めうまは、おのいえはらめば、便すなわ祓除ふつじょせしめて、ついうまうばふ。つてくことかくごとし。

【字句謹解】◯布二尋 一じょうしゃくの布のこと、一ひろは約八尺のこと ◯麻二束 二十の麻 ◯鍬一口 一本のくわくわは農具の一 ◯細馬 申し分のない馬 ◯貪愛 今更相手にかへすのが惜しくなること ◯謾語を作りて 出鱈目でたらめをいふ ◯偸失 盗まれる意 ◯ 驛傳えきでんによつて知る。

【大意謹述】最近の噂によれば、今述べるやうな事件が參河みかわ尾張おわりに起つた。る人がみやこのぼる時に、平生へいぜいから愛育してゐた馬が留守中にせることを心配し、一じょうしゃくの布、二十の麻を持參じさんし、參河みかわ尾張おわり兩國りょうこくの人に送つて萬事ばんじたのみ込んだ。この人々は大丈夫留守中は立派に育てるやうに確言かくげんしたので、たのんだ人はこころのこりなくみやこのぼつた。無事に必要な用事を終へて歸國きこくするにあたつて、その人へ御禮おれいのためにくわ一本をづ送つて受取に行くと驚いたことには、あれ程受合つた人が少しも留守中に世話せず、結局馬は榮養えいよう不良で死んでしまつたのである。

 何もこの一例に限らず、同樣どうような事件は屢々しばしば起つた。かうした場合に預つた馬が申し分のない程良いものであつたら、返すのが惜しくなつて留守中に盗まれてしまつたと出鱈目でたらめを言ひ、あるいはそれが牝馬めうまで、自分の家で妊娠したり子を產んだりすれば、家がけがれたからきよめると言ひがかりをつけて、結局その馬を奪つてしまふ。果してこの種の行爲こうい默認もくにん出來ようか。