8-11 陋習を禁ずるの詔 孝德天皇(第三十六代)

陋習ろうしゅうきんずるのみことのり(第十一段)(大化二年三月 日本書紀

(營墓の詔)

復有被役邊畔民。事了還郷之日、忽然得疾、臥死路頭。於是路頭之家、乃謂之曰、何故使人死於余路。因留死者友伴、强使祓除。由是兄雖臥死於路、其弟不收者多。

【謹譯】邊畔ほとりのくにつかはれたるたみあり、ことへてくにかえるの忽然にわかやまいて、みちほとり臥死が しす。ここみちほとりいえすなわかたりていわく、なんゆえひとをしてあたりせしむると。りて死者ししゃ友伴ともがきとどめて、ひて祓除ふつじょせしむ。これりて、あにみち臥死が しすといえども、おとうとおさめざるものおおし。

【字句謹解】◯邊畔 ほとりのくに、故郷から遠くはなれた國の意 ◯役はれたる民 かみの命令で一定の任期中勞役ろうえきさせられる民 ◯事了へて 定められた仕事が終つて ◯路の頭 故郷にかえる途上での意 ◯友伴 友人、一緒に來た者 ◯收めざる ほうむることが出來ない。

【大意謹述】かみ御用ごようのために故郷から遠く離れた場所で勞役ろうえきを命ぜられた者がある。無事にそのやくを勤めて郷里きょうりに還らうと道を急ぐ途中で、何かの急病におそはれ死んでしまつた。途上にたおれた死者を見ながら、その附邊あたりの者は、こんな場所に死なせて土地をけがらはしいものにしたと言ひ合ひ、共に來た者を無理にめてけがれ祓除は らはせた實例じつれいがある。法律によつて無緣むえんの者の墓には、必ず本籍・姓名を記した木片もくへんを建てるやうにと命じてあるにもかかわらず、上記のおこないをする者は、一方に國法を輕視けいしするのみでなく、他方には兄が死んでも弟がほうむることの出來ない悲慘事ひさんじの直接原因を作り出す責任者ともなる。

【備考】古代から日本民族は、一般に汚穢おわいを嫌つた。それは何よりも淸潔せいけつ淨白じょうはくたっと精神せいしんの反映で、もとより喜ぶべきであるが、ただそれが抹梢化まっしょうかして、淸潔せいけつたっとぶのあまり、の不幸な人々にたいし、同情をくやうではいけない。勅語ちょくごでは、それをいましめられたのである。