8-3 陋習を禁ずるの詔 孝德天皇(第三十六代)

陋習ろうしゅうきんずるのみことのり(第三段)(大化二年三月 日本書紀

(營墓の詔)

廼者我民貧絕、專由營墓。爰陳其制、尊卑使別。夫王以上之墓者、其內長九尺、濶五尺。其外域方九尋、高五尋。役一千人、七日使訖。其葬時帷帳等、用白布、有轜車。

【謹譯】廼者このごろたみ貧絕と もしきこと、もっぱはかつくるにる。ここせいべて、尊卑そんぴべつあらしむ。おうより以上いじょうはかは、うちながさ九しゃくひろさ五しゃく外域めぐりほうひろたかさ五ひろやく一千にん、七おわらしむ。ふるときかたびらかいしろとうには白布はくふもちゐよ。轜車じゅしゃあれ。

【字句謹解】◯廼者 このごろ、近頃の意 ◯貧絕 貧窮ひんきゅうして生活にことく ◯尊卑別あらしむ 社會しゃかいに住む生前の地位によつて墓も差別させること ◯王以上 普通に王といへば、天皇から五世の血族關係かんけいにある者までを指す ◯九尋 ひろは八しゃくといふのが定說らしい。八尺とすれば九ひろは七じょう二尺である ◯ 課役かやくに使用する人々 ◯帷帳 これを「かたびら、かいしろ」とませてある、かんを送る時、それをおお白布はくふつたもの。なほ、諸說あつて一定しない ◯轜車 きぐるま、かんせてはこぶ車のこと。

【大意謹述】支那し ないにしえの帝王が、葬式を簡單かんたんにするやう民をいましめたのも、全く無理はないとちんは思ふ。近頃國民はあまりに葬式に金錢きんせんついやしすぎる。けだし國民の貧窮ひんきゅうが目立つて多くなつたのも、全くみなが必要以上に葬儀に金を費すからにほかならない。朕はそれを防ぐ目的から、次に大體だいたいの規模を定めて、生前の地位におうじて墓の大小をも決しようと考へる。

 づ、王の地位及びそれ以上の人々の墓は、內部の長さが九しゃく、横幅が五尺、墓地のそう區域くいきは九ひろ平方(約七丈二尺平方)、高さは五ひろ(約四丈)として約一千人の者を課役かやくして、七日間で工事を終らせる。死體したいかんに入れて葬儀を行ふ時には、かんおお白布はくふが必要であり、又、棺をせてはこぶ車も用意しなくてはならない。

【備考】孔子こうしは、すべて葬儀は、社會しゃかいに於ける身分の高下こうげ如何いかんともなひ、分相應ぶんそうおうにするのが一番、ふさはしくてよいといふ事をおしへてゐる。ところが、この程よき具合を無視して、過不及かふきゅうがあるのは、よくない。ことに身分低く、資力しりょくのないものが、無理む り算段さんだんをして、ぶんにすぎた厚葬こうそうをするのは、その動機・心持こころもちは、どうあらうとも、よき結果をもたらさない。現にこの勅語ちょくご中にも、「廼者このごろ、わが民の貧絕と もしきこと、もっぱら墓をつくるによる」とあつて、支那し な成子高せいしこう薄葬はくそうせつとは反對はんたいかたをしてゐる。墓を立派にするのはよいが、これ又分相應ぶんそうおうといふことがある。貧乏するのを覺悟かくごして、墓を立派にしたところが、その祖先、父母の喜ぶところとはなるまい。このてん、一々、規定を設けるのは、設ける側に取つて中々わづらはしく骨が折れるが、臣民しんみんのためここにその制定をされたのである。これ又一つには、れいを正しくする所以ゆえんでもあつた。