8-2 陋習を禁ずるの詔 孝德天皇(第三十六代)

陋習ろうしゅうきんずるのみことのり(第二段)(大化二年三月 日本書紀

(營墓の詔)

無藏金銀銅鐵、一以瓦器、合古塗車蒭靈之義、棺漆際會、奠三過飯。含無以珠玉、無施襦玉柙。諸愚俗所爲也。又曰、葬者藏也。欲人之不得見也。

【謹譯】きんぎんどうてつおさむることなく、一に瓦器が きもって、いにしえ塗車としゃ蒭靈すうれいかなへ、かん際會ひまあいうるしぬり、まつりは三たび過飯む けよ。ふくむるに珠玉た まもってすることなかれ。たまこしごろもたまよろいほどこすことなかれ。もろもろ愚俗ぐぞくのなすところなり。またいわく、とむらいかくすなり。ひとることをざらむをおもふと。

【字句謹解】◯瓦器を以て 土をき固めた器具で ◯塗車 葬送そうそうしたがふ車、彩色さいしょくを塗り、象牙ぞうげ金玉きんぎょくで飾つた ◯蒭靈 草で人形を作り、死者の從者じゅうしゃとして共にほうむつたもの。『禮記らいき檀弓だんぐうの中にある ◯際會に漆ぬり 板と板とのすき間にうるしをぬること ◯奠は三たび過飯よ 死者のれいなぐさめるため、日に三度めしそなへる ◯含むるに珠玉を以て云々 いにしえは高貴な人が死んだ時には、臭氣しゅうき發散はっさんするのを防ぐために、口中こうちゅう香玉こうぎょくを入れた。この場合、その必要はないといふのである ◯珠の襦 これも高貴の人のとむらいに用ふる具で、たまを糸でつらぬいて甲冑よろいかぶとのやうに身體からだおおつたもの ◯玉の柙 玉の箱 ◯愚俗 知識のない人々 ◯葬は藏なり せい太夫たいふこく伯高はくこうの父がつた言葉、死者をほうむるのは、人目から死者をかくす意であるとて薄葬はくそうを主張した。

【大意謹述】葬式を行ふにあたり、かんの內部に金銀銅てつなどの器具を入れ置く必要は少しもない。すべて土をき固めた器具を以て、古代の塗車ぬりぐるま及び草人形の意味にへるがよい。そしてかんの板と板との間にはうるしを塗り、死者の靈魂れいこんなぐさめるため、三度の食事をそなへればよい。臭氣しゅうきしの珠玉た まを口に含ませるに及ばず、たまをつらねた衣でおおひ、玉の箱などを造るには及ばぬ。それらは古代の葬儀に用ひたものだが、おおむ思慮しりょいたらぬもののした習慣である。支那し なでは、葬儀は死體したいかくす意で、人の目にれさせないのが目的であるともいましめてゐる。

【備考】この勅語ちょくご中にある支那人しなじんの言葉はせい成子高せいしこうの說で、『禮記らいき檀弓だんぐうじょう第三の中に、「ほうむるはおさむるなり。おさむるは人の見るを得ざらんことを欲するなり。このゆえに、衣は以て身を飾るに足り、かんは衣をめぐらし、かくかんめぐらし、土はかくめぐらすのみ。かえりて壤樹じょうじゅせんや」とある。その意は、「ほうむるはおさむる義にほかならない。だから衣は身を飾るに足ればよく、かんはその衣をめぐりおおふことが出來ればよく、かくかんをめぐりおおふことに役立てばよろしい。それから土はかくおおふやうであれば、それで足りる。ゆえ今日こんにちの如くかえつて更に土を盛りあげてふんをつくり、樹を植ゑて、これがひょうとする必要は少しもない」といふのである。