3-4 遺詔 雄略天皇(第二十一代)

遺詔いしょう(第四段)(二十三年 日本書紀

今年踰若干、不復稱夭。筋力精神一時勞竭。如此之事、本非爲身。止欲安養百姓。所以致此。人生子孫誰不屬念。旣爲天下事須割情。

【謹譯】今年こんねん若干そこばくえぬ、いのちみじかしとはず。筋力きんりょく精神せいしん一時もろともいたきぬ。かくごとこともとよりためにするにあらず。百姓ひゃくせい安養やすけくせむとおもふのみ。これいた所以ゆえんは、人生う み子孫だれおもいけざらむ。すで天下てんかめにはことすべからくこころつくすべし。

【字句謹解】◯夭し 早世そうせい。〔註一〕參照 ◯筋力 肉體にくたいの意 ◯ おもふこと。自分の考へた一切のこと ◯割す 詳細に語らなければならない。

〔註一〕夭し この遺詔いしょう天皇ほうぜられたのだが、御壽おんとしついては各說あつて一定しない。『日本にほん書紀しょき』にはそれが記してなく、『舊事紀く じ き』『古事記こ じ き』には一百二十四とあり、『水鏡みずかがみ』『一だい要記ようき』には九十三、『神皇じんのう正統記しょうとうき』には八十、『愚管鈔ぐかんしょう』には一百四とある。『大日本史だいにほんし』にはこれらを參考として六十二と決定してゐる。

【大意謹述】しかるに今年こんねんになると身體しんたい工合ぐあい大分だいぶ恢復かいふくしたらしくもあるが、このまま全快するとは思へず、もう若死わかじにといふ年でもなく、肉體にくたい精神せいしんも疲れ切つて、最早もはや再び朝政ちょうせいを執ることは斷念だんねんしなくてはならなくなつた。前にも言つた通り、に望んでなほ死を望まないのは、ちんしんのためではなく、國民を安堵あんどさせたいからに他ならない。もう再びてないとすれば朕の意志を次代の天皇つたへ、遺業いぎょうを完成させるのが朕の執るべき最上の手段とならう。それに就いて天下のために、朕は今考へるところをのこりなく汝等なんじらに告げて置きたい。

【備考】この勅語ちょくごはいすると、天皇明澄めいちょうな御心境、沈著ちんちゃくな御態度をはつきり思ひ浮べまゐらすことが出來る。きたるべき時代について、御心みこころを注がれたことは、善政ぜんせい實現じつげんを切に望まれたからであらうと拜察はいさつする。