76 糴糶を行ふの詔 仁明天皇(第五十四代)

糴糶てきとうおこなふのみことのり(大長十年十二月 續日本後紀

如聞。諸國糴糶。有利於民。无損於公。自今以後。不立年限。永俾行之。

【謹譯】くならく、諸國しょこく糴糶てきとうあり。たみありて、おおやけそんしと。いまより以後い ご年限ねんげんてず、ながこれおこなはしめよ。

【字句謹解】◯糴糶 かひよねとうりよね、詳しくは備考欄をみよ ◯ わたくしたいする語、おほやけ、官府かんぷ ◯ 古字こ じ

【大意謹述】聞くところによると、諸國において糴糶てきとうを行ひ、その結果は、民には利益りえきがあつて官府かんぷにも損はなく、一きょ兩得りょうとくであるとのことである。それで今後は、別に年限ねんげんを定むるところなく、ながくこれを行はしむるやうにせよ。

【備考】糴糶てきとうについては、淳仁じゅんにん天皇も、天平てんぴょう寶字ほうじ三年五月、一には調脚ちょうきゃく飢苦き くを救ひ、二には穀價こっかの調節をはかるために、これを奬勵しょうれいせられて居ることは、すでに第四十八においていた通りである。その後、光仁こうにん天皇寶龜ほうき四年三月の(續日本紀)にも、ほぼ同樣どうようのことが出て居る。

 糴糶てきとううして、一きょ兩得りょうとく的に官民かんみん雙方そうほう利益りえきげることが出來るかといふに、それは公廨く げとうを利用して、その時々の相場にしたがひ、米價べいかが安い時にはかいよねし、たかい時にはうりよねするのであるから、第一に米價べいかを調節する。すなわ米價べいかの安いときはかみかいよねして、米を倉庫に蓄へて置いて不當ふとう米價べいかの低落することをせいするし、また米價べいかたかい時には、倉庫の米を出してうりよねするので、これまた米價べいか暴騰ぼうとうを防ぎ、細民さいみんを救ふこととなる。しかもかみとしては、この賣買ばいばいの間に相當そうとうの利益をおさむることが出來るし、つまた凶作等の非常時に備へる便べんもあるので、かたがたかやうに奬勵しょうれいせられたのである。