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74 稻榖を返給するの勅 仁明天皇(第五十四代)

稻榖とうこく返給へんきゅうするのみことのり(天長十年五月 續日本後紀

夫富豪所貯。是貧窶之資也。如聞。先來所行。吏非其人。只事借用。无意返給。所以貧富倶弊。周急憐絕。宜至秋收。特遣使者。悉令返給。

【謹譯】富豪ふごうたくわふるところは、貧窶ひんくなり。くならく、さきころよりおこなところ、ひとあらず、借用しゃくようこととして、返給へんきゅうなしと。所以ゆ え貧富ひんぷともおとろふるなり。きゅうすくひ、ぜつあわれみ、よろしく秋收しゅうしゅういたり、とく使者ししゃつかわして、ことごと返給へんきゅうせしむべし。

【字句謹解】◯富豪 富裕ふゆうの人。資產のおほき人。ものもち、かねもち ◯貧窶 まづしくてやつれる。財產がとぼしくてやつやつし ◯ つくりもたらせるもの。たから、資材、物資 ◯ 官吏かんり、役人 ◯弊ふる 疲弊ひへいする ◯返給 返しきゅうする。返却する ◯周急 急場をすくひ助ける。論語ろんご雍也ようやへんに『不繼富』とあるに出づ ◯憐絕 ぜつ乏絕ぼうぜつすなわ貧窶ひんくせる人。貧乏人をあはれみめぐむこと ◯秋收 秋の收穫しゅうかく、あきのとりいれ。

【大意謹述】富豪ふごうたくわへてるところのものは、もとをただせば、すなわち貧乏人のつくりもたらせる物資にほかならぬ。聞くところによれば、先般來せんぱんらい役人の行ふところは、人間としての道にはづれ、ただ借用することのみ知つて、返却する意志はもたないといふことである。かやうなふうであるから貧者ひんじゃ富者ふしゃも、ともにますます疲弊ひへいするのである。今後は非常に困つて居るものの急場をすくひ、貧乏人をめぐみあはれみ、秋のとりいれどきに、特に使つかいのものをやつて、返却させるやうにせよ。