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55 不當の利を貪るを禁ずるの勅 光仁天皇(第四十九代)

大日本詔勅謹解1 思想社會篇

不當ふとうむさぼるをきんずるのみことのり(寶龜十年九月 續日本紀

頃年百姓競求利潤。或擧少錢。貪得多利。或期重契。强責質財。未經幾月。忽然一倍。窮民酬償彌致滅門。自今以後。宜據令條。不得以過一倍之利。若不悛心。㒃及與者。不論蔭贖。科違勅罪。卽奪其臟。以賜告人。非對物主。賣質亦同。

【謹譯】頃年けいねん百姓ひゃくせいきそうて利潤りじゅんもとめ、あるい少錢しょうせんげて、多利た り貪得たんとくし、あるい重契じゅうけいして、ひて質財しちざいむ。いま幾月いくげつをもざるに、忽然こつぜんとして一ばいす。窮民きゅうみん酬償しゅうしょうして彌々いよいよもんほろぼすをいたす。いまより以後い ごよろしく令條りょうじょうり、もって一ばいぐるをざらしむべし。こころあらためず、かしおよあたふるものは、蔭贖いんしょくろんぜず、違勅いちょくつみし、すなわぞううばひ、もっげたるひとたまへ。物主ぶっしゅたいするのみにあらず、賣質ばいしちまたおなじ。

【字句謹解】◯頃年 このごろ、近來きんらい、近年の意 ◯百姓 もろもろのくにたみ ◯利潤 まうけ、收支しゅうしさしひきして利益りえき ◯少錢 わづかのぜに ◯貪得 むさぼりとる ◯重契 おもいとりきめ、重負じゅうふの契約 ◯强ひて むりやりに、おして ◯質財 しちははもの、てがたすなわち約束の保證ほしょうに預けておくもの。ざいはたから、おかね、財貨ざいか ◯忽然 にはかに、すみやかに、たちまち ◯一倍 ばいになる、二が四となり、四が八になる如し ◯窮民 まづしくて難儀なんぎなる民 ◯酬償 むくひつぐなふ。かへしつぐなふ ◯ 家門かもん、いへ、いへがら。家庭 ◯令條 のり、おきて。箇條かじょうを分けて規定しある規則命令。特にここでは『三代格だいきゃく』を指されしものか ◯悛む あらたむ、前非ぜんぴいあらためること ◯ 貸すに同じ ◯蔭贖 いんはかげ、ひそかにの意。しょくはあがなふ、金品を出して、罪をまぬがれること。すなわちかげでひそかに金品を出して、罪過ざいかめをまぬがれようとすること ◯違勅の罪 勅命ちょくめいにたがふ罪 ◯科す 處罰しょばつする、罪をあてて處斷しょだんすること ◯ 臟品ぞうひん、不正の方法で得た物品をいふ ◯物主 そのものの所有主 ◯賣質 質財しちざいりはらふ。

【大意謹述】近年、百姓ひゃくせいうちには不當ふとうの利をむさぼる不心得ふこころえものがあり、わづかの金を貸して、多額の利息をむさぼり取り、あるい負擔ふたんの重い契約を結ばせて、無理に保證ほしょう物件をとつておき、幾月もたないのにこれを責め、たちまちのうちに倍以上にして取り上げるので、貧乏なものはますます困り、ために家をほろぼすものが少くないといふことである。今後は法規の定めるところにしたがつて、一倍以上の利息を取らせてはならぬ。もし心をあらためず、依然として不當ふとうの利をむさぼるものがあつたならば、ひそかに金品を出して罪をあがなはうとするものでも何でも許すところなく、いづれも違勅いちょくの罪をもつて處斷しょだんし、贓物ぞうぶつかみにおいて沒收ぼっしゅうし、その不正を告げた人にあたへるやうにせよ。ほまた右のことは、ただに物主もちぬしたいしてばかりでなく、質財しちざい賣却ばいきゃくしたものにたいしてもまた同斷どうざいである。

【備考】山崎やまざき校本こうほんに『なるべし』とあるも、下文げぶんに『賣亦同』とあれば、に作る。また原本はに作り、列聖れっせい全集編纂會へんさいかい編『詔勅集』は同じくに作るも、類史るいしおよび六國史りくこくしに改む。ほ『不得以過一倍之利』に就ては、三代格だいきゃく弘仁こうにん十年五月二日の太政官だじょうかんぷを引けるも似字に じなし。