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53 農桑を勸課するの勅 稱德天皇(第四十八代)

農桑のうそう勸課かんかするのみことのり(神護景雲元年四月 續日本紀

夫農者天下之本也。吏者民之父母也。勸課農桑。令有常制。比來諸國。頻年不登。匪唯天道乖宜。仰亦人事怠慢。宜令天下。勤事農桑。仍擇差國司恪勤尤異者一人。幷郡司及民中良謹有誠者郡別一人。專當其事。錄名申上。先以肅敬。禱祀境內。有驗神祇。次以存心。勸課部下。百姓產業。若其所祈有應。所催見益。則專當之人別加褒賞。

【謹譯】のう天下てんかもとなり。たみ父母ふ ぼなり。農桑のうそう勸課かんかして、つねせいらしめよ。このごろ諸國しょこく頻年ひんねんみのらず。ただ天道てんどうよろしきにそむくのみにあらず、そもそ人事じんじ怠慢たいまんすればなり。よろしく天下てんかをして、つとめて農桑のうそうこととせしむべし。よっ國司こくし恪勤かっきんにして、もっとなるものにんならび郡司ぐんじおよたみうちよりつつしみてまことあるもの郡別ぐんべつに一にんえらつかはして、こと專當せんとうせしめ、ろくして申上しんじょうせよ。肅敬しゅくけいもっ境內けいだいしるしある神祇しんぎ禱祀ま つり、つぎ存心ぞんしんもっ部下ぶ か百姓ひゃくせい產業さんぎょう勸課かんかせよ。いのとここたへあり、もよおとこえきるあらば、すなわ專當せんとうひとは、べつ褒賞ほうしょうくわへよ。

【字句謹解】◯ 官吏かんり、役人 ◯農桑 農業と養蠶ようさん業 ◯勸課 仕事をわりあててすすめる ◯ 制裁せいさい節制せっせいの意。さばく、しめくくり、のり、さだめ ◯頻年 毎年まいねん毎年まいねん、近年しきりに ◯登らず 榖物こくもつがみのらない。みのらず、みのらずに同じ ◯天道 天の道、自然のみち、天理てんり ◯怠慢 おこたりなまける ◯國司 大寶令たいほうりょうによる地方長官。詳くは第二十一の〔註一〕をみよ ◯恪勤 つつしみてつとめる ◯ すぐれたる異才いさい常人じょうにんよりもすぐれし人 ◯郡司 國司こくし管下かんかにあつて、ぐんを治めし職名、大寶令たいほうりょうによれば、大領たいりょう(かみ)・少領しょうりょう(すけ)・主政しゅせい(じょう)・主帳しゅちょう(さかん)の四職ししょくがあつた。詳しくは第二十二の〔註一〕をみよ ◯專當 もつぱらあたらせる。專門せんもんにその事をやらせる ◯申上 おかみへ申す ◯肅敬 つつしみうやまふ。顏氏がんしの家訓に『吾毎讀聖人之書、未嘗不對之』とある ◯ しるし、ききめ。靈驗れいげん神佛しんぶつのふしぎなる感應かんのう ◯神祇 天津神あまつかみ國津神くにつかみと。天神てんしん地祇ち ぎと、かみがみ ◯禱祀 まつりいのる ◯存心 心をぞんして、すなわち充分に注意すること ◯應へ かみ感應かんのう ◯褒賞 ほめて褒美ほうびあたへること。

【大意謹述】思ふに農業は國家のもとであり、官吏かんりは人民の父母である。それで官吏かんりは、農業や養蠶ようさん業を民にわりててすすめはげまし、つねに節制しめくくりがあるやうにせねばならぬ。このごろ諸國が凶作つづきで、榖物こくもつがみのらないのは、ただ天候がわるかつたからばかりではなく、一つは人々がおこたりなまけて居たからである。今後はさやうなことがあつてはならぬ。よく民をして、農業や養蠶ようさん業にせい出させるやうにせねばならぬ。そこで國司こくしのつつしみ深く勤勉にして、最もすぐれたものを一人と、郡司ぐんじおよび人民の中から誠實せいじつなものを、各郡別に一人づつえらびつかはし、專門せんもんにそのことにあたらせるやうにして、各人の名を記して朝廷に上申じょうしんせよ。そして靈驗れいげんあらたかなる神々かみがみを、うやうやしくまつつて豐作ほうさくをいのり、つぎに充分の注意をもつて、部下ぶ か百姓ひゃくせい產業さんぎょうを、はげましすすめるやうにせよ。もしその祈りに神の感應かんのうがあり、榖物がよくみのつて民に利益りえきがあつたならば、專門せんもんそのことにあたつたものにたいしては、特別に褒美ほうびをとらせるやうにせよ。