22 國郡司の利を收むるを禁ずるの詔 元明天皇(第四十三代)

こく郡司ぐんじおさむるをきんずるのみことのり和銅五年五月 續日本紀

諸國大稅。三年賑貸者。本爲恤濟百姓窮乏。今國郡司及里長等。緣此恩借妄生方便。害政蠧民莫斯爲甚。如顧潤身。枉收利者。以重論之。罪在不赦。

【謹譯】諸國しょこく大稅たいぜいを三ねん賑貸しんたいしたるは、もと百姓ひゃくせい窮乏きゅうぼうあわれすくはんがためなり。いまこく郡司ぐんじおよ里長りちょうこの恩借おんしゃくみだりに方便ほうべんす。まつりごとがいたみすること、これよりはなはだしきはなし。うるおすをかえりみ、げておさむるものは、おもきをもっこれろんじ、つみゆるさざるにり。

【字句謹解】◯大稅 大本おおもとぜいすなわ調ちょうなどを指す ◯賑貸 しんはにぎはす、貧しきものを救ひめぐむこと。史記し きに『虛郡國倉廩、以貧民』とあり。にぎはし救ふ、めぐみあたへる意。賑救しんきゅう賑給しんきゅう賑濟しんさい賑恤びしんじゅつに同じ。たいはかしあたへる意 ◯窮乏 まづしくてこまれること、貧乏で苦しむ ◯恤み濟ふ じゅつはあはれみめぐむ、いつくしみ愛する、にぎはし救ふ。すくふは救ふに同じ、助けること ◯國・郡司 國司こくし郡司ぐんじ國司こくしとは昔、諸國に置かれし地方官にしてかみすけじょうもく等の職員がある。詳しくは第二十一の〔註一〕を參照せよ。郡司ぐんじとは國司こくし管下かんかにあつてぐんを治めし職名、詳しくはの〔註一〕を見よ ◯里長 さとのをさ、今の村長にあたる。大寶令たいほうりょうしたがへば人家じんか五十をもつてとなす。戸令こりょうに『凡戸以五十戸爲里、毎里置長一人』とあり。ほ詳しくは〔註二〕を參照せよ ◯恩借 恩典おんてんによるり、めぐみほどこされしもの ◯方便 てだて、手段、便益べんえきるための方法 ◯民を蠹す むし(木の中に生じてしんをくふ蟲)。こめのむし、しみむし。內部にあつて害毒がいどくを加へる意で、てんじて物ごとに害をすることに言ふ。すなわち民を害すること ◯身を潤す 自分だけの利益りえきをはかる、一身の利をはかる ◯枉げて 、無理にも、强制きょうせいする意。

〔註一〕郡司 大領たいりょう少領しょうりょう主政しゅせい主帳しゅちょう郡司ぐんじといひ、國司こくしの命をうけて郡內の事務をる。郡司ぐんじすうは、郡の等級によつて相違そういするが、大寶令たいほうりょうによる『郡の等級および郡司の員數いんすう表』はの通りである(大化の制度とは同じからざる所あり)。

大郡 里の數(一里は五十戸) 二十里以下十六里以上/郡司數 大領一、少領一、主政三、主帳三、合計八

上郡 里の數 十二里以上/郡司數 大領一、少領一、主政二、主帳二、合計六

中郡 里の數 八里以上/郡司數 大領一、少領一、主政一、主帳一、合計四

下郡 里の數 四里以上/郡司數 大領一、少領一、主帳一、合計三

小郡 里の數 二里以上/郡司數 大領一、主帳一、合計二

〔註二〕 は一にごうともいひ、大寶令たいほうりょうによれば、一は五十から成るを定則ていそくとする。もし六十戸になると、十戸をいて別に一里を立て、五十九戸までは一里の中にれいして、別に里を立てない。各里ごとに里長りちょう一人を置き戸口ここう檢校けんこうし、農桑のうそうすすめ、非違ひ いを禁じ、賦役ぶやく催促さいそくせしめる。里長りちょうはその里內の白丁はくちょう(無位のもの)の淸正せいしょう强幹きょうかんなるものをつて、これに任じ、もしその里內に適任者がない場合には、比隣ひりんから採る。ただし八位以下のもので、請願せいがんするものがあつた場合には、これを採用することもあつた。

【大意謹述】さきに諸國の大稅たいぜいを三年間、にぎはし貸したのは、もともと百姓ひゃくせい困窮こんきゅうして居るのを、あはれみ救はんためであつた。しかるに今日こんにち實狀じつじょうをみるに、國司こくし郡司ぐんじ里長りちょうなどは、かえつてこの恩典おんてんを惡用して、自己のえきをはかるための方便ほうべんとして居る。國家の政治をみだり、人民に害毒がいどくあたへること、これよりはなはだしきはない。もし今後ほ一身の利益りえきのみを考へ、ひてかかる不正な利をむさぼるものがあつたならば、その者にたいしては最も重き罪をもつてこれを處分しょぶんし、決してその罪をゆるしてはならぬ。

【備考】『諸國の大稅たいぜいを三年賑貸しんたいしたるは』とおおせられて居るのは、このみことのりを下されし前年すなわ和銅わどう四年十一月みことのりはっして、大稅たいぜいを三年賑貸しんたいせられたことを指されしものである。

 諸國の大稅たいぜいは三年の間、借貸しゃくたいこれきゅうし、その利をおさむるなかれ。また畿內きないの百せいにしてとし八十以上のもの、及び孤獨こどくにして自存じそんあたはざるものは、衣服・食物しょくもつたまふ。

と。しかるにみずか非違ひ い糺正きゅうせいし、調ちょう徵集ちょうしゅうし、賦役ぶやく督促とくそくすべき地位にある國司こくし郡司ぐんじ里長りちょうやからが、折角せっかくのこの恩典おんてんを惡用して、ただ一身の利益りえきのみをはかり、不正の利をむさぼらうとしたので、天皇には更にこのみことのりはっして、こく郡司ぐんじ不當ふとうの利をおさむることを、改めて禁ぜられたのである。