21 山野を占むるを禁ずるの詔 元明天皇(第四十三代)

山野さんやむるをきんずるのみことのり和銅四年十二月 續日本紀

親王已下及豪强之家。多占山野妨百姓業。自今以來。嚴加禁斷。但有應墾開空地者。宜經國司然後聽官處分。

【謹譯】親王しんのう已下い かおよ豪强ごうきょういえおお山野さんやめ、百姓ひゃくせいわざさまたぐ。いまより以來いらいげん禁斷きんだんくわふ。ただ空地くうち墾開こんかいすべきものあらば、よろしく國司こくししかのちかん處分しょぶんくべし。

【字句謹解】◯親王 皇子おうじ皇孫こうそん等にたまはる稱號しょうごうで、皇女こうじょ親王ないしんのうと申し、出家しゅっけ後に親王しんのうとなり給うたかた法親王ほうしんのうと申し、親王しんのうにして出家しゅっけされたかた入道にゅうどう親王しんのうと申し上げる。大寶律たいほうりつりょう位階制いかいせいによれば親王しんのうは四階、諸王は十四階、諸臣は三十階と規定されて居る。親王しんのうの四階とは一ぽん・二ほん・三ぼんほんで、その官位かんい相當そうとうは、左の如くである。

 一ぽん太政だじょう大臣、二ほん左右さ う大臣、三ぼんほん大納言だいなごん太宰帥だざいのそつ八省卿はっしょうのかみ

ほ現今では、皇子おうじ以下皇玄孫こうげんそんに至る皇族男子の御方おかたに申し、天皇支系しけいより入つて大統だいとうけたまはば、皇兄弟こうけいていの王の稱號しょうごう御方おんかたたまはり、また現在の皇族五せい以下親王しんのう稱號しょうごうのある御方おんかたは、きゅうの如く申し上げる定めである ◯豪强の家 勢力の强大なる家門かもん豪族ごうぞく ◯百姓 もろもろのたみ、人民、天下一般の國民。また農民の意もあり ◯禁斷 はつと。さしとめる、やつてはいけないととどめいましめる ◯空地 あき地 ◯墾開 開墾かいこんする。開拓、開發かいはつ山野さんやをひらいて田畝でんぽをつくること ◯國司 むかし諸國に置かれし地方官、詳しくは〔註一〕を見よ ◯官の處分に聽くべし 役所の指揮をあおぎ、その指令によつて行動せよの意。

〔註一〕國司 國司こくしはその國の事務をつかさどるかん淸原きよはら夏野なつの令義解りょうのぎげ(天長十年の著)によれば、その事務は、祠社ししゃ戸口こぐち簿帳ぼちょう百姓ひゃくせい等のことをつかさどり、農桑のうそう勸果かんかし、所部しょべ糾察きゅうさつし、貢擧こうきょ孝義こうぎ田宅でんたく良賤りょうせん訴訟そしょう租調そちょう倉廩そうりん徭役ようえき兵士へいし器仗きじょう鼓吹こすい郵驛ゆうえき傳馬てんま烽候ほうこう城牧じょうぼく過所かしょ公私こうし馬牛ばぎゅう闌物らんもつ雜物ざつぶつ、および寺院・僧尼そうに名籍めいせき等を管掌かんしょうする。國司こくしにはかみすけじょうもく等の職員があり、國の大小によつて、その員數いんすうには差がある。例へば(大和・河內その他の十三國を大國といふ)には守・介・大掾だいじょう少掾しょうじょう大目だいもく少目しょうもく各一にんづつ合計六人、には、守・介・掾・目各一にんづつ合計四人、には守・掾・目各一にんづつ合計三人、には守・目各一にんづつ合計二にんるが如し。

【大意謹述】親王しんのう以下の諸官や地方の豪族ごうぞくどもは、ほしいままに山野さんや獨占どくせんして、百姓ひゃくせいなりわいを妨害して居る。今後は決して左樣さようなことがないやうに、きびしくこれをさしとめる。ただ空地あきちを開拓して田や畑をつくりたい者があつたならば、まづそれぞれの國司こくしの手をて役所に願ひで、その指令をあおいだ上で開墾かいこんするやうにせねばならぬ。

【備考】このみことのりは、王臣おうしん豪族ごうぞくがみだりに廣大こうだいなる山野さんや田圃でんぽ獨占どくせんして、百姓ひゃくせいなりわいを妨げることの不都合なことを、きびしく禁斷きんだんせられたものである。これより天皇には、和銅わどう元年七月、特にみことのりして王臣おうしん戒飭かいちょくせられ

 なんじ王臣おうしん諸司しょしもとたり。汝等なんじらの力をいたすにりて、諸司しょし人等ひとらも、すべからく薺整せいせいすべし。ちん聞く、忠淨ちゅうじょう臣子しんしぎょうを守りて、つい榮貴えいきを受け、貪濁たんだく臣子しんしの道をうしなひて、必ず罪辱ざいじょくこうむると。これ天地てんち恒理こうり君臣くんしん明鏡めいきょうなり。

おおせられて居る。しかるにいくばくもなく、諸王臣おうしん豪族ごうぞく徒輩ともがらが、この聖旨せいしに反して、その地位權勢けんせいを利用し、ほしいままに天下の山野さんや獨占どくせんして、百姓ひゃくせいなりわいを妨害するに至つたので、更にこのみことのりを下して、これを嚴戒げんかいし給うたのである。