15 王卿を戒むるの詔 天武天皇(第四十代)

王卿おうけいいましむるのみことのり(八年十月 日本書紀

朕聞之。近日暴惡者多在巷里。是則王卿等之過也。或聞暴惡者也。煩之忍而不治。或見惡人也。倦之匿以不正。其隨見聞。以糺彈者。豈有暴惡乎。是以自今以後。無煩倦而上責下過。下諫上暴乃國家治焉。

【謹譯】ちんく、近日きんじつ暴惡ぼうあくものおお巷里こうりりと。すなわ王卿おうけいあやまちなり。あるい暴惡ぼうあくものくや、これわずらわしとしてしのびてかんがへず、あるい惡人あくにんるやこれみてかくしてもったださず。見聞けんもんしたがひてもっ糺彈きゅうだんせば、暴惡ぼうあくあらんや。ここもっいまより以後い ごわずらおこたることくして、かみしもあやまちめ、しもかみぼういさめば、すなわ國家こっかおさまらん。

【字句謹解】◯暴惡 ぼうはあらくれて手荒い、亂暴らんぼうあくはよこしまでわるいこと。あらくれて惡いものの意、今日こんにちのいはゆるギヤングのたぐい ◯巷里 こうはちまた、街。はむらざと。すなわ町中まちなかや村里 ◯王卿 おうとは皇族の男子にして親王しんのう宣下せんげなきかたをいふが、當時とうじ武帝てんむてい御制定ごせいていりょうにては、諸王を十二階に、諸臣を四十八階にわかたれた。けい執政しっせいの大臣、朝廷の高官 ◯煩し うるさい、めんだうくさい ◯忍びて ひそかにかくす、內證ないしょうにする。知られないやうにくらます ◯糺彈 しらべただす、罪狀ざいじょうをしらべて彈劾だんがいする。

【大意謹述】聞くところによれば、この頃町や村里に亂暴らんぼう無賴ぶらいのともがらが多く居るとのことであるが、これは諸王や執政しっせいの大臣等の怠慢たいまんの罪である。亂暴者らんぼうものが居るといふことを聞いても、うるさいので、これを內證ないしょうにしてよくなさうとはせず、また亂暴者を發見はっけんしても、當然とうぜんの職務をうみおこたつて、これをかくして矯正きょうせいしようとしないからである。惡人あくにんの居ることを見聞けんぶんするごとに、用捨ようしゃなくひつとらへて、調べただして彈劾だんがいするやうにしたならば、どうして惡人のはびこることがあるだらうか。ゆえに今後は、わづらひおこたることなく、かみしものあやまちを責め、しもかみ暴政ぼうせいいさめ正すやうにせねばならぬ。さうすれば、國家は正しく治まるであらう。

【備考】天皇はかやうに、王卿おうけいいましめて市井しせい無賴ぶらいを取締らしめられたが、その後も依然いぜんとしてこれ等不逞漢ふていかん横行おうこうはやまなかつたので、十一年十一月更にみことのりを下して

 およそ法を犯す者を糺彈きゅうだんせよ。あるい禁省きんしょううちあるいは朝廷のうち、その過失はっするところに於て、すなわち見るにしたがひ聞くにしたがひて、匿蔽とくへいするところなく糺彈きゅうだんせよ。

おおせられ、それぞれ犯狀はんじょうおうじて嚴重げんじゅうなる罰則ばっそくを定められた。これによつて暴惡ぼうあく、ほとんどあとをたつにいたつたといふ。