105 親 明治天皇(第百二十二代)

親 たらちねのみをやの敎おしえあらたまの年としふるままに身みにぞしみける。 【字句謹解】◯たらちねのみをや 垂乳根たらちねの御親みおや、幼時ようじから養育された御父君おんちちぎみの義で、孝明こうめい天皇を申し奉たてまつる ◯敎 敎訓きょうくんのこ…

104 花瓶 明治天皇(第百二十二代)

花瓶 うるはしき花はなをゑがける小瓶こがめには松まつの枝えだをや折おりてさしてむ。 【字句謹解】◯うるはしき 美しい義 ◯小瓶 小型の花いけ ◯松の枝 前句「うるはしき花をゑがける小瓶こがめ」と對たいして仰おおせられたのであり、美事みごとな花をゑが…

103 折にふれて 明治天皇(第百二十二代)

折にふれて さまざまにもの思おもひせしふたとせはあまたの年としを經へしここちする。 【字句謹解】◯さまざまに 多くのことを色々に考へること ◯もの思ひ 多くのことを心痛する ◯ふたとせ 明治三十七八年の二年間の義。日露にちろ交戰こうせん中の二年間で…

102 折にふれて 明治天皇(第百二十二代)

折にふれて あたらしき年としの始はじめに仇あだの城しろ開ひらきにけりと傳つたへ來きにけり。 【字句謹解】◯あたらしき年の始め 新年の始めのこと。新年とは明治三十八年の新春の意である ◯仇の城 旅順りょじゅんの城の義 ◯開きにけり 開城かいじょうした…

101 花火 明治天皇(第百二十二代)

花火 かちいくさ祝いわふなるらむ市人いちびとが花火はなびうちあぐる音おときこゆなり。 【字句謹解】◯かちいくさ祝ふなるらむ 戰勝せんしょうを奉祝ほうしゅくするのでもあらう ◯市人 市場いちばに出る商人の義だが、この場合は街中での群集を廣ひろく指し…

100 凱旋觀艦式に臨みて 明治天皇(第百二十二代)

凱旋觀艦式に臨みて いさましくかちどきあげて沖おきつ浪なみかへりし船ふねを見みるぞうれしき。 【字句謹解】◯いさましく 勇氣ゆうきがあふれる形容 ◯かちどき 戰勝せんしょうの時に一軍の勇氣ゆうきを鼓こするために出す鬨ときをいふ ◯沖つ浪かへりし船 …

99 天 明治天皇(第百二十二代)

天 ひさかたの空そらはへだてもなかりけりつちなる國くにはさかひあれども。 【字句謹解】◯ひさかたの空 「ひさかた」は天あめの枕言葉まくらことば。義は種々あるが、日の指す方といふのが妥當だとうであらう。〔註一〕參照さんしょう ◯へだてもなかりけり …

98 寐覺述懷 明治天皇(第百二十二代)

寐覺述懷 ゆくすゑはいかになるかと曉あかつきのねざめねざめに世よをおもふかな。 【字句謹解】◯ゆくすゑはいかになるか 今後はどうなるであらうかと、日露にちろ開戰かいせんの初めに御心痛あそばされたこと。勿論もちろん、天皇は正義のため、東洋平和の…

97 述懷 明治天皇(第百二十二代)

述懷 おほづつの響ひびきはたえて四方よ ものうみよろこびの聲こえいつかきこえむ。 【字句謹解】◯おほづつの響 大砲たいほうの音響の義で、戰爭せんそうを意味する ◯たえて 絕たえて、すつかり消えてなくなること ◯四方の海 我が國くにの周圍しゅういの義 ◯…

96 寄國祝 明治天皇(第百二十二代)

寄國祝 橿原かしはらの宮みやのおきてにもとづきてわが日ひの本もとの國くにをたもたむ。 【字句謹解】◯橿原の宮のおきて 橿原かしはらの宮みやのおきてとは神武じんむ天皇の定められた我が建國けんこく精神せいしんのこと。〔註一〕參照さんしょう ◯もとづ…

95 神祇 明治天皇(第百二十二代)

神祇 神垣かみがきに朝あさまゐりしていのるかな國くにと民たみとのやすからむ世よを。 【字句謹解】◯神垣 神境しんきょうを區劃くかくする垣かきの義で、ここでは神かみを祭つてある場所のことに轉化てんかされて用ひてある ◯朝まゐり 夜明けに心身しんしん…

94 田家翁 明治天皇(第百二十二代)

田家翁 子こらはみないくさのにはに出いではてておきなやひとり山田やまだ守もるらむ。 【字句謹解】◯子ら 後句こうく「おきな」に對たいする言葉、出征しゅっせい兵士をいふ ◯いくさのには 戰場せんじょうのこと ◯出ではて すつかり出征しゅっせいしてしま…

93 天 明治天皇(第百二十二代)

天 淺あさみどり澄すみ渡わたりたる大空おおぞらのひろきをおのが心こころともがな。 【字句謹解】◯淺みどり澄み渡りたる大空 一點てんの雲もなく、全部が薄いみどり色に澄み渡つた大空。後句こうくの「ひろき」を言ひ出す序じょとして使用された言葉 ◯ひろ…

92 述懷 明治天皇(第百二十二代)

述懷 よの中なかはたかきいやしきほどほどに身みを盡つくすこそつとめなりけれ。 【字句謹解】◯よの中 世の中、世間の義 ◯たかき 身分の高い事、社會しゃかい的地位の上部にある事 ◯いやしき 身分の賤いやしいこと、社會しゃかい的に下位にある意味 ◯ほどほ…

91 折にふれて 明治天皇(第百二十二代)

折にふれて 家いえ富とみてあかぬことなき身みなりとも人ひとのつとめにおこたるなゆめ。 【字句謹解】◯あかぬことなき身 「あかぬ」は不足、不滿足ふまんぞくの義。何事でも思ふがままになる身の上のこと ◯人のつとめ 身分に應おうじて各自の職分しょくぶん…

90 藥 明治天皇(第百二十二代)

藥 國くにのためながかれと思おもふ老人おいびとにしなぬ藥くすりをさづけてしがな。 【字句謹解】◯ながかれ 長命ちょうめいしてほしいと願ふ ◯老人 老齡ろうれいの功臣こうしんたち ◯しなぬ藥 不死の藥くすり、不老不死の藥くすりに對たいする憧れは支那し …

89 折にふれて 明治天皇(第百二十二代)

折にふれて 民たみのため心こころのやすむ時ときぞなき身みは九重ここのえの內うちにありても。 【字句謹解】◯民のため 國民こくみんにはたして天皇の叡慮えいりょが行ゆき亙わたつてゐるか否いなかを考へられて ◯心のやすむ時 心とは天皇の御心みこころをい…

88 述懷 明治天皇(第百二十二代)

述懷 ひとり身みをかへりみるかなまつりごとたすくる人ひとはあまたあれども。 【字句謹解】◯ひとり身をかへりみるかな 「ひとり」は御自分での義、「身をかへりみる」は御反省されて責任を感ぜられること ◯まつりごとたすくる人 國政こくせいを輔佐ほ さす…

87 述懷 明治天皇(第百二十二代)

述懷 曉あかつきのねざめしづかに思おもふかなわがまつりごといかがあらむと。 【字句謹解】◯曉のねざめ 夜明け方にふと目を覺さまし、起きるには早く、寢ねる氣きもしないといふ場合をいふ。夜中やちゅうの睡眠の後のちに心境がさえて、いろいろと日常多忙…

86 神祇 明治天皇(第百二十二代)

神祇 ちはやぶる神かみの心こころをこころにてわが國民くにたみを治おさめてしかな。 【字句謹解】◯ちはやぶる いちはやぶるの義で强猛きょうもうの意、神かみの枕言葉まくらことばとして使用されてゐる ◯神の心 天照大御神あまてらすおおみかみの御言葉みこ…

85 落葉浮水 明治天皇(第百二十二代)

落葉浮水 魚うおはみな底そこに沈しずみてもみぢ葉ばのうかぶもさむし庭にわの池水いけみず。 【字句謹解】◯底に沈みて 池の底に深く入つて少しも表面に浮び出ないこと。秋の半なかば過ぎの氣節きせつをかく表現された ◯もみぢ葉 池の傍そばにある紅葉した葉…

84 社頭祈世 明治天皇(第百二十二代)

社頭祈世 とこしへに民たみ安やすかれと祈いのるなるわが世よを守まもれ伊勢い せの大神おおかみ。 【字句謹解】◯とこしへに 永久に ◯民安かれ 國民こくみんが安穩あんのんであつてほしい ◯祈るなる 祈禱きとうをする ◯わが世 朕ちんの世を統治してゐる御代…

83 河水久澄 明治天皇(第百二十二代)

河水久澄 昔むかしよりながれ絕たえせぬ五十鈴川いすずがわなほ萬代よろずよもすまむとぞ思もふ。 【字句謹解】◯昔より 我が國くに開闢かいびょう以來いらいの意 ◯ながれ絕えせぬ五十鈴川 五十鈴い す ずは伊勢の皇太神宮こうたいじんぐうの傍かたわらを流れ…

82 述懷 孝明天皇(第百二十一代)

述懷 あぢきなやまたあぢきなや葦原あしはらのたのむかひなき武藏野むさしのの原はら。 【字句謹解】◯あぢきなやまたあぎきなや 相手が自分の想像とはづれたので、心中に持つてゐた興味を凡すべて失ふことを「あぢきなし」といふ。德川とくがわ幕府が外夷が…

81 戈 孝明天皇(第百二十一代)

戈 戈ほことりてまもれ宮人みやびとここのへのみはしの櫻さくら風かぜそよぐなり。 【字句謹解】◯戈とりて 戈ほことは諸刄もろはの劔けんに長い柄えをつけた槍に似た武器、又は弓の幹みきをいふ。何いずれにしてもこの場合は武器の總稱そうしょうであると考…

80 心在山花 孝明天皇(第百二十一代)

心在山花 願ねがはくばこころしづかに山やまの端はの花はな見みてくらす春はるとしもがな。 【字句謹解】◯願はくば 末句まつくの「がな」と合して强つよい願望の意を見せたものである。どうかさうあつてほしいといふ程の意 ◯こころしづかに 他たに何の心配も…

79 述懷 孝明天皇(第百二十一代)

述懷 さまざまになきみわらひみ語かたりあふも國くにを思おもひつ民たみ思おもふため。 【字句謹解】◯さまざまに 泣いたり笑つたり語つたりと後句こうくを受ける意になる ◯なきみわらひみ 泣いてみたり笑つてみたりする。複雜ふくざつ多難たなんな當時とうじ…

78 書 孝明天皇(第百二十一代)

書 日々にちにちのふみにつけても國民くにたみのやすき文字も じこそ見みまくほしけれ。 【字句謹解】◯日々のふみにつけても 日々にちにちに讀書どくしょする際にもの意。「ふみ」は書物をいふ ◯國民のやすき文字 國民こくみんのやすきといふ文字の義で、天…

77 浦千鳥 孝明天皇(第百二十一代)

浦千鳥 浦うらづたふ千鳥ちどりにつれてよよの爲ためまことただしき人ひとをえまほし。 【字句謹解】◯浦づたふ千鳥 冬期に河海かかいの上を群ぐんをなして飛ぶ千鳥ちどり、千鳥ちどりとは渉禽類しょうきんるいの一種で、群飛ぐんぴして遠方から海岸線又は河…

76 薄風 孝明天皇(第百二十一代)

薄風 夕嵐ゆうあらしふくにつけても花はなすすきあだなるかたになびくまじきぞ。 【字句謹解】◯夕嵐 日暮ひ くれ方がたになつて一吹ふき雨あめと共に降り込む嵐のことで、それが花園かえんを荒すものとされてゐる關係かんけい上、我が日ひの本もとの平和を荒…