88 述懷 明治天皇(第百二十二代)

述懷 ひとり身みをかへりみるかなまつりごとたすくる人ひとはあまたあれども。 【字句謹解】◯ひとり身をかへりみるかな 「ひとり」は御自分での義、「身をかへりみる」は御反省されて責任を感ぜられること ◯まつりごとたすくる人 國政こくせいを輔佐ほ さす…

87 述懷 明治天皇(第百二十二代)

述懷 曉あかつきのねざめしづかに思おもふかなわがまつりごといかがあらむと。 【字句謹解】◯曉のねざめ 夜明け方にふと目を覺さまし、起きるには早く、寢ねる氣きもしないといふ場合をいふ。夜中やちゅうの睡眠の後のちに心境がさえて、いろいろと日常多忙…

86 神祇 明治天皇(第百二十二代)

神祇 ちはやぶる神かみの心こころをこころにてわが國民くにたみを治おさめてしかな。 【字句謹解】◯ちはやぶる いちはやぶるの義で强猛きょうもうの意、神かみの枕言葉まくらことばとして使用されてゐる ◯神の心 天照大御神あまてらすおおみかみの御言葉みこ…

85 落葉浮水 明治天皇(第百二十二代)

落葉浮水 魚うおはみな底そこに沈しずみてもみぢ葉ばのうかぶもさむし庭にわの池水いけみず。 【字句謹解】◯底に沈みて 池の底に深く入つて少しも表面に浮び出ないこと。秋の半なかば過ぎの氣節きせつをかく表現された ◯もみぢ葉 池の傍そばにある紅葉した葉…

84 社頭祈世 明治天皇(第百二十二代)

社頭祈世 とこしへに民たみ安やすかれと祈いのるなるわが世よを守まもれ伊勢い せの大神おおかみ。 【字句謹解】◯とこしへに 永久に ◯民安かれ 國民こくみんが安穩あんのんであつてほしい ◯祈るなる 祈禱きとうをする ◯わが世 朕ちんの世を統治してゐる御代…

83 河水久澄 明治天皇(第百二十二代)

河水久澄 昔むかしよりながれ絕たえせぬ五十鈴川いすずがわなほ萬代よろずよもすまむとぞ思もふ。 【字句謹解】◯昔より 我が國くに開闢かいびょう以來いらいの意 ◯ながれ絕えせぬ五十鈴川 五十鈴い す ずは伊勢の皇太神宮こうたいじんぐうの傍かたわらを流れ…

82 述懷 孝明天皇(第百二十一代)

述懷 あぢきなやまたあぢきなや葦原あしはらのたのむかひなき武藏野むさしのの原はら。 【字句謹解】◯あぢきなやまたあぎきなや 相手が自分の想像とはづれたので、心中に持つてゐた興味を凡すべて失ふことを「あぢきなし」といふ。德川とくがわ幕府が外夷が…

81 戈 孝明天皇(第百二十一代)

戈 戈ほことりてまもれ宮人みやびとここのへのみはしの櫻さくら風かぜそよぐなり。 【字句謹解】◯戈とりて 戈ほことは諸刄もろはの劔けんに長い柄えをつけた槍に似た武器、又は弓の幹みきをいふ。何いずれにしてもこの場合は武器の總稱そうしょうであると考…

80 心在山花 孝明天皇(第百二十一代)

心在山花 願ねがはくばこころしづかに山やまの端はの花はな見みてくらす春はるとしもがな。 【字句謹解】◯願はくば 末句まつくの「がな」と合して强つよい願望の意を見せたものである。どうかさうあつてほしいといふ程の意 ◯こころしづかに 他たに何の心配も…

79 述懷 孝明天皇(第百二十一代)

述懷 さまざまになきみわらひみ語かたりあふも國くにを思おもひつ民たみ思おもふため。 【字句謹解】◯さまざまに 泣いたり笑つたり語つたりと後句こうくを受ける意になる ◯なきみわらひみ 泣いてみたり笑つてみたりする。複雜ふくざつ多難たなんな當時とうじ…

78 書 孝明天皇(第百二十一代)

書 日々にちにちのふみにつけても國民くにたみのやすき文字も じこそ見みまくほしけれ。 【字句謹解】◯日々のふみにつけても 日々にちにちに讀書どくしょする際にもの意。「ふみ」は書物をいふ ◯國民のやすき文字 國民こくみんのやすきといふ文字の義で、天…

77 浦千鳥 孝明天皇(第百二十一代)

浦千鳥 浦うらづたふ千鳥ちどりにつれてよよの爲ためまことただしき人ひとをえまほし。 【字句謹解】◯浦づたふ千鳥 冬期に河海かかいの上を群ぐんをなして飛ぶ千鳥ちどり、千鳥ちどりとは渉禽類しょうきんるいの一種で、群飛ぐんぴして遠方から海岸線又は河…

76 薄風 孝明天皇(第百二十一代)

薄風 夕嵐ゆうあらしふくにつけても花はなすすきあだなるかたになびくまじきぞ。 【字句謹解】◯夕嵐 日暮ひ くれ方がたになつて一吹ふき雨あめと共に降り込む嵐のことで、それが花園かえんを荒すものとされてゐる關係かんけい上、我が日ひの本もとの平和を荒…

75 神風 孝明天皇(第百二十一代)

神風 異人ことびととともにもはらへ神風かみかぜやただしからずと我わが忌いむものを。 【字句謹解】◯異人 外國人がいこくじんの意 ◯ただしからずと 正しい心を持つてゐない者として ◯我が忌むものを 自分の嫌な人物を。 〔注意〕本御製ほんぎょせいは文久ぶ…

74 寄風述懷 孝明天皇(第百二十一代)

寄風述懷 こと國くにもなづめる人ひとものこりなくはらひつくさむ神風かみかぜもがな。 【字句謹解】◯こと國 外國がいこくのこと。勿論もちろん外國人を含ませて仰おおせられたもので、主としてアメリカ、ロシア、イギリスなどを指され給たもうたのである ◯…

73 霧隔行舟 孝明天皇(第百二十一代)

霧隔行舟 異國ことくにのふねも見みわかずへだつるは神かみのこころの霧きりのうなばら。 【字句謹解】◯異國のふね 外國がいこく船の意で、嘉永かえい六年六月に浦賀うらがに來きたアメリカ船、同七月に長崎に達したロシア船、安政あんせい元年閏うるう七月…

72 秋津洲 孝明天皇(第百二十一代)

秋津洲 もののふも心こころあはして秋津洲あきつしまの國くにはうごかずともにをさめむ。 【字句謹解】◯もののふも 武士も朝廷と力を協あわせての意で、叡慮えいりょは外夷がいいの侵入に對たいして神國しんこくを守護するためには擧國きょこく一致ちとなつ…

71 夏朝 仁孝天皇(第百二十代)

夏朝 てらしつる夜半よ わの螢ほたるはかげ消きえてしばしすずしき露つゆの草くさむら。 【字句謹解】◯てらしつる夜半の螢 夜中になるとあちこちにぽつぽつと輝いてゐた螢ほたる。「つる」は過去完了の意である ◯かげ消えて 姿は全く見えなくなつて、「かげ…

70 寄鶴祝言 光格天皇(第百十九代)

寄鶴祝言 五十路い そ じよりかぞへそへつゝなれてすむ鶴つるの齡よわいに契ちぎれとぞ思もふ。 【字句謹解】◯五十路より 五十歲さいを出發點しゅっぱつてんとしてそれ以後のこと。これは〔注意〕で述べるやうに德川とくがわ家治いえはるが五十歲に達したの…

69 海邊月 光格天皇(第百十九代)

海邊月 のこりなくてらしてすめる波なみの月つきいそべの松まつも蜑あまのとまやも。 【字句謹解】◯のこりなく 殘のこる方かたなく一面に ◯てらしてすめる 海面を凡すべて照てらし、月の姿を水に澄すませて映させてゐること ◯波の月 海面にある月のことで、…

68 山端月 光格天皇(第百十九代)

山端月 雲霧くもきりははらひつくせし秋あきかぜのみがきて出いづるやまのはの月つき。 【字句謹解】◯雲霧ははらひつくせし 雲や霧が空にあつたのを、凡すべて風が一掃し盡つくしてしまつた ◯秋かぜのみがきて出づる 風のためにすつかり空を磨いて美しくした…

67 早春鶯 後桃園天皇(第百十八代)

早春鶯 いとはやも春はるを告つげてや我わが園そのにけさ長閑のどかなるうぐひすの聲こえ。 【字句謹解】◯いとはやも 非常にはやいことである。もう鶯うぐいすが來きたと半なかば驚き半なかば喜ばれる氣持きもちを言現いいあらわした句である ◯春を告げてや …

66 迎春 後櫻町天皇(第百十七代)

迎春 諸人もろびともひとつごころに祝いわふ世よのゆたけさ見みえて春はるのたのしき。 【字句謹解】◯諸人 國民の全部 ◯ひとつごころに 心を合はせること ◯ゆたけさ 富み榮さかえる形容で、ゆつたりとしたさま ◯春 新春の意である ◯たのしき 心に少しも不滿…

65 旅 桃園天皇(第百十六代)

旅 いでしわがふるさとちかみ乘のる駒こまも心こころもいさむ旅たびのかへるさ。 【字句謹解】◯いでしわがふるさとちかみ 長い間住んでゐた故郷をあとに旅に出たが、今や再び懷なつかしいその場所が近くなつた。「いでし」と故郷をあとにして旅出たびだつた…

64 故郷雨 桃園天皇(第百十六代)

故郷雨 すみしよをしのぶ草くさ生おふる故郷ふるさとの軒端のきばにそゝぐ雨あめのしづけさ。 【字句謹解】◯すみしよ 住すみし世よの意で、嘗かつて一定期間に生活した時代 ◯しのぶ草 忍草しのぶくさ。忍草しのぶぐさはわすれ草ぐさの異名で、わすれ草とは萱…

63 田家 桃園天皇(第百十六代)

田家 にぎはふと聞きくぞうれしき小山田おやまだのよもにかずそふ民たみの家々いえいえ。 【字句謹解】◯にぎはふ 數かずが多くなること。家の數かずが多くなる意と各家かっけに子供が多くなる意とを兼ねられたのである ◯うれしき 心中に滿足まんぞくすること…

62 神祇 櫻町天皇(第百十五代)

神祇 あまてらす神かみぞ知しるらむすゑながき代々よ よの日嗣ひつぎをいのる心こころは。 【字句謹解】◯あまてらす 大空の全部に亙わたつて光り輝くことで、ここでは神かみの枕言葉と解せられる ◯すゑながき代々の日嗣 萬世ばんせい不朽ふきゅうの皇統こう…

61 擣衣 東山天皇(第百十三代)

擣衣 しづのめが夜よ寒さむわびてや有明ありあけの月つきふくるまでころもうつなり。 【字句謹解】◯しづのめ 賤しづの女めで、身分の賤いやしい女のことをいふ ◯夜寒わびてや 夜の寒さに寢ね入いられないのであらうとの意で、「わびる」とは當惑とうわくする…

60 秋河 靈元天皇(第百十二代)

秋河 月つきよりもなほ身みにしむは更ふくる夜よのあらしにすめる秋あきの河音かわおと。 【字句謹解】◯身にしむ 身にしみじみと物を思はせること ◯更くる夜 夜よがすつかり更ふけわたつた秋のさみしい時 ◯あらしにすめる 秋の激しい風が一時じ吹き止んで、…

59 君臣有義 後水尾天皇(第百八代)

君臣有義 天あまつ空そらくもりなきまで照てる月つきのうつれる水みずのいろものこらず。 【字句謹解】◯天つ空 大空一杯の意 ◯くもりなき すつかり月の光によつて照り輝き、少しも暗いところのないこと ◯照る月 照り輝く月。この場合月とは天皇の御事おんこ…