135 曉鷄聲 今上天皇(第百二十四代)

曉鷄聲

ゆめさめて我世わがよをおもふあかつきにながなきどりのこえぞきこゆる。

【字句謹解】◯ゆめさめて 夢めて、御夢おんゆめから御目覺お め ざめ遊ばすことで、「あかつき」のじょとして用ひられてある ◯我世をおもふ 陛下が御統治あらせられる現代日本の政治狀態じょうたいを御考慮あること ◯あかつき 夜明け方の意 ◯長なきどり にわとりのこと、天照大御神あまてらすおおみかみ岩戸いわとかくれの時に、にわとりこえげたとの故事があり、常世長鳴鳥とこよのながなきどりとして記されてゐるのにる。

〔注意〕本御製ほんぎょせいは昭和七年度の新年御題ぎょだい曉鷄聲あかつきのけいせい」につてえいぜられたもので、御意ぎょい明治天皇

 あかつきのねざめしづかに思ふかなわがまつりごといかがあらむと

と全く同一の御趣旨ごしゅしのやうにはいする。

【大意謹述】夜半よ わの夢から目めて、夜明け方に、現にちんが統治してゐる日本の政治狀態に就いて考へてゐると、新春第一じつを告げるとりこえが、いきおいよくほがらかに耳に入つてた。

【備考】明治天皇御雄風ごゆうふうをそのまま受繼うけつたまへる今上きんじょう陛下が、平生へいぜい政治上に最も精勵せいれいあらせられ、昭和の日本を進展せしむるがために、大御心おおみこころを傾けさせたまへることは國民こくみんのすべてが悅喜えっきする所である。新しい年を迎へるにあたつて、づその春の最初に行ふべき政治を如何い かにすべきかととりこえ御耳おみみにされながら、靜思せいしなされた御熱誠ごねっせいたいし、國民こくみんは感激せざるを得ない。將來しょうらいの日本は、必ずや明治時代の偉觀いかんにひとしい一大展開を實現じつげんするであらうことが期待せられる。その豫示よ じともいふべきものは、この有難い御製ぎょせいである。

134 社頭雪 今上天皇(第百二十四代)

社頭雪

ふるゆきにこころきよめてやすらけきをこそいのれかみのひろまへ。

【字句謹解】◯ふる雪に 雪の降つてゐるうちにの義であるが、ここでは降り止んだのちとしても差支ないやうに思はれる ◯こころきよめて 潔白な雪に心のにごりをあらひきよめること ◯安らけき世 平和がつづく世の中 ◯神のひろまへ かみ御前みまえと同じ。神前しんぜんのこと。

〔注意〕本御製ほんぎょせいは昭和六年度の御題ぎょだい社頭雪しゃとうのゆき」につて、世の和平をかみいのられる大御心おおみこころえいぜられたのである。

【大意謹述】降りつもつた潔白な雪によつて心をすつかり洗ひ、きよらかな氣分きぶんとなり、かみ御前みまえに平和な世のつづかんことを、何よりもきにちんいのり申すのである。

【備考】今上きんじょう陛下が、敬神けいしん愛民あいみん御精神ごせいしんませたまふことは、この御製ぎょせいの上に明白に表示されてゐる。神道しんどうでは、外淸淨がいせいじょう內淸淨ないせいじょうといふことをくが、ここには潔白な雪の如く、心をきよめて、かみの前に起ちたまひ、第一に國民こくみんの生活安定といふことをいのらせたもうたのである。かみも陛下の御思召おぼしめしに必ず反應はんのうし共鳴せられたであらう。

133 海邊巖 今上天皇(第百二十四代)

海邊巖

いそざきにたゆまずよするあらなみしのぐいはほのちからをぞおもふ。

【字句謹解】◯いそ崎 海岸線にそうての場所より突出した部分をいふ ◯たゆまず 常にはげみつづける形容 ◯よする 打ち寄せること ◯あら波 荒い激しい波の意 ◯凌ぐいはほ 荒波あらなみに打ち勝つて平然としてゐる巖石がんせき ◯力をぞおもふ その巖石がんせきの偉大な力をうらやましいものとして想像する。

【大意謹述】濱邊はまべに突出した部分に常に力いつぱい打ち寄せ、しぶきを立てる荒波に打ち勝つて平然と盤踞ばんきょする大岩おおいわが見える。ちんはこの大岩石だいがんせきの底知れない力をうらやましいものと思ふ。

【備考】「海邊巖うみべのいわお」といふ新春御題ぎょだいえいぜられたのが本御製ほんぎょせいである。力づよい御表現と壯大そうだいな御內容とは、陛下の御氣象ごきしょうに似つかはしくはいせられる。

132 田家朝 今上天皇(第百二十四代)

田家朝

みやこいでてとほくぬればきわたる朝風あさかぜきよし小田お だのなかみち

【字句謹解】◯都いでて 帝都ていとをはなれて ◯とほく來ぬれば 遠く地方にてみるとの意 ◯吹きわたる 諸方を一ように吹くこと ◯朝風きよし 朝の風が少しもにごりなく、そのうちに立つ人に淸々せいせいとした感をあたへる意 ◯小田のなか道 小田お だは田の意。田畠たはたで四方が滿ちてゐる、その間の道。

〔注意〕本御製ほんぎょせいは「田家朝でんかのあさ」との御題ぎょだいもとえいぜられた昭和四年の御作おんさくで、自然のうちにすつかりり切つた心持こころもちを示された敍景詩じょけいしである。

【大意謹述】帝都ていとをはなれて遠くてみると、田園の間の小路こみちを吹き渡る朝の風が少しもにごりなく、人々にすがすがしい氣持きもちあたへ、しずかな平和な自然の味を滿喫まんきつさせる。

131 山色新 今上天皇(第百二十四代)

山色新

山々やまやまいろはあらたにみゆれどもわがまつりごといかにあるらむ。

【字句謹解】◯色はあらたに 景色は每年まいねん春になれば新しく生れかはつたやうに美しく見える意 ◯わがまつりごと ちんが統治してゐる日本の政治 ◯いかにあるらむ どうであらうか。はたして自然の景色のやうに每年まいねん新しいおもむきをそへるであらうかと、國政こくせいかんして御反省あそばされたもの。

〔注意〕本御製ほんぎょせいは「山色新さんしょくあらた」との御題ぎょだいえいぜられたもので、新年の初めにあたつて、天皇國政こくせいを深くかえりみられた大御心おおみこころ拜察はいさつする。昭和三年度の新年御歌會おうたかい發表はっぴょうされたのである。

【大意謹述】四方の山々の景色は、每年まいねん春になると面目めんぼくを一新して目める程美しくなるが、ちんの統治してゐる我が日本の政治狀態は果して、自然のやうに年々おもむきを改め、よい方へ向つてくであらうか。

【備考】政治に全心を注がれて、その向上に専念さるる思召おぼしめしが、ここによくあらはれてゐる。面目一新!それは、大自然の姿のみにとどまらず、政治の上にも實現じつげんしたい。すなわちよき方へ、意義ある方へ、新しい第一歩を年每としごとに進めたい。かういふ風に國民こくみん幸福こうふくのために大御心おおみこころを注がれてゐることが、御製ぎょせいの上に示されてゐる。